とうとう寝たか、と北本は少し離れた席を見やった。今日は結構持ったほうだと思ったが、最後まで持った試しはない。午後の授業は必ず寝る。 午後は睡眠授業常習犯の田沼を、北本は今の席からよく見てきた。毎回午後になると寝てしまうものだから、面白くなって見てしまい、いつしか習慣のようになっていた。 念仏のような教師の授業より、睡魔と闘う田沼の横顔を見ていたほうがよほど楽しいのが、北本の本音。今にも閉じてしまいそうな目だとか、頬杖をついてはゆらゆらと揺れる頭だとか、見ていて思わずにやっとしてしまう。 そうしてとうとう寝たか、と前を向くと、バッチリ教師と目が合ってしまった。 「ずいぶん楽しそうだな、北本。次の問題はそんな北本に解いてもらおうか」 教師の一言に室内には笑いが起きて、北本は顔を引きつらせた。ふと田沼を見ると、彼はことの次第が見えずきょとんとしている。 「え、えーと、五段活用です」 「今は数学だ、馬鹿者」 教師とのやりとりをぽかんとして聞いている田沼に、北本は周囲の生徒の笑いにつられるふりして苦笑を零した。 ‐‐‐‐‐ 田沼は完全にマークされているに違いない。 |