年下の少年と共に恋に落ちて、どれだけの月日が経っただろう。互いの距離を測りかねていた初な少年は今、この腕の中だ。隣に座ることすら難しかったかつてを思うと、随分と進歩したことを実感する。今や膝の上にすら躊躇いがちにも座ってくれる田沼を、名取は愛しさを込めて抱き締める。 ここまでくるのに、どれほどの時間を要しただろう。カレンダーを見るのが躊躇われる。田沼と出会ったのがついこの間のように思われるが、脳裏を過る思い出の数がそれを否定した。やっと手を繋げた日、何の迷いもなく抱き締められた日。ひとつひとつがほの甘く踏み締めた数ある一歩。 そんな記憶に浸り、つい苦笑を零す。それに気付きこちらを見やる田沼に、名取は何でもないとゆるりと首を振った。 「少し思い出に浸っていただけだよ」 「思い出、ですか?」 「うん。前は隣に座ることすら難しかったのになぁって」 そう告げると、田沼は困ったような顔をして頬を染めた。 「やめてくださいよ。あの時は……あの時です」 適当な言葉が見つからなかったのか、意味合いを濁しながら目線を下げる田沼。当時を思い出し、恥ずかしい思いに囚われているようだ。その様は出会った当初から変わらず可愛らしい。惚れた弱みが入ってるとしてもだ。 まだ細い肩を抱き寄せると、体がさらに密着する。ふと目線を持ち上げた田沼にそっと微笑むと、前髪を掻き上げてこめかみに唇を寄せた。彼の頬の赤みが見る間に強まる。しかし黒い瞳には喜色が揺らめいていた。 「好きだよ」 囁けば、田沼の眼が嬉しそうに細められる。紛うことなき恋人の反応。 「おれも、です」 恥ずかしさに少し詰まった言い方すら愛しくて、名取は堪えきれず口付けを要求した。言葉なく近付けられる顔に田沼は戸惑いを見せることなく、応えるように目を閉じる。なんて極自然な動作。 田沼からの口付けはまだ無理だ。だがここまでくれば、揺るがぬ地位を得たも同然。いつだったか夏目に嫉妬を覚えかけたときもあったが、もうそんなことで悩む必要などない。得も言われぬ幸福を、唇からの感触や温もりで噛み締める。 体温どころか、こうして心の温もりすら与えあえるようになった。手放すまでもなく、離れられない愛しい存在。これからもこうして手を取り合い少しずつ歩んでいけるのかと思うと、思い描く未来が眩しくて目を細める。光に溢れて見えないが、きっと幸せに違いないと、腕の中の恋人と笑い合った。 ‐‐‐‐‐ メチャクチャ前進しました。誰が何と言おうと恋人の二人を目指しました。名取頑張った。 |