朝からあまり顔色がよくなかったが、午後の授業に差し掛かってとうとう田沼が倒れた。少し立ちくらみを起こしただけだと言い張る彼を、引きずるようにして保健室に連れ込む。 「先生、いないみたいだな」 「北本、おれ」 「いいから寝てろ。どうせ次の時間、自習なんだし」 ここまで来て渋る田沼を、北本は半ば無理矢理ベッドへ寝かせた。上から掛け布団をかぶせると、ようやくおとなしくなる。掛け布団の下で彼は、申し訳なさそうに眉を八の字にした。 「熱はないみたいだな」 田沼の額の熱と自分の額の熱とを手のひらで比べ、大差ないことを確かめる。そうして手を離すと、どこか名残惜しそうな彼の目と目が合った。日頃から穏やかさばかりしか見せない黒い眼が、さらにその感覚を助長させる。 「北本……」 「ん?」 「……いや、何でもない」 布団の中へ潜り込んでしまった田沼に、北本は小さく笑みを零した。妹という自分より下の存在を持つ身として、彼が甘えたい気持ちを押し隠していることに感付いた。自己主張をしない性格の彼だ。甘え方が解らないのだろうし、第一高校生にもなってと恥ずかしいのだろう。 「何だよ。甘えたいなら遠慮なく甘えろって」 辛うじて飛び出している黒い頭を、優しく掻き混ぜる。そろそろと布団から見せた彼の顔半分は、羞恥に赤らんでいた。 「……頭痛い」 絞りだすように呟かれた一言は、つまり頭を撫でてほしいのだと暗に告げている。北本は持ち前の勘の良さでそれを察し、田沼の頭を撫で続けた。 ‐‐‐‐‐ これがキッカケで北沼に目覚めた。 |