ゆっくりしていってくれと懇願され、つい弱くなってしまった眼に絆されて夕食をいただくことになってしまった。的場は慣れないことに若干戸惑いつつも、台所に立って忙しなく動く田沼を静観した。
 外に出てはしゃぐような子供ではないと思ってはいたが、まさか主婦のような少年だったとは思わなかった。巷で流行りの主夫というものだろうか。的場は一人考える。
 ぼんやりしているうちに出来上がったらしく、田沼が大きめのお盆を手に台所から出てきた。途端に鼻を掠める芳しい匂いに、的場はつい目を見開く。

「口に合うか解りませんけど……」

 緊張した面持ちの田沼から箸を受け取り、見た目にも美味しい煮物を口にした。

「驚きました。まさか君にこんな才能があったとは」

 つまりはどういうことだと瞬きしている田沼に、的場は微笑んでみせた。

「美味しいですよ。こんなに美味しいものは初めて食べました」

 的場の一言に、田沼は途端に表情を綻ばせた。かなり緊張していたらしい。解けた黒い眼にはうっすらと涙の膜さえ張ってある。なんと可愛らしいことだろう。

「よかった……。あ、ご飯!今持ってきますね」

 慌ただしく台所に駆け戻る田沼に、的場は小さく吹き出した。こんなにも温かくて愉快な気分は初めてだった。
 すぐさま持ってこられたご飯と味噌汁も絶品で、的場はおかわりまでしてしまった。その上余さず全てを食べきり、綺麗になってしまった皿や茶わんを見た田沼が嬉しそうに笑うのを見て、柄にもなく幸せを噛み締めた。





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そこはかとなく、キモい(酷)






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