怠い会合がようやく終わった。胡散臭い奴らが集まる場所だが、面白い話が転がり込んでくるなど早々あるものではない。もはや同窓会の域だな、と的場は鼻で笑う。
 会合に出たきりの、着のみ着のままで八つ原の鬱蒼とした森の中を歩く。真っ白い小袖の上に真っ黒な羽織は街を歩くとやたら目を引いてしまうので、多くの妖の噂で人気のないここを帰り道に選んだ。
 空に薄く雲が張ったせいで、より一層薄暗さを増した森の中を、雨雲を運ぶ風が吹き抜けた。その騒めきにも似た梢の音に紛れて、うっすらとした人の気配が的場に届く。

(あれは……)

 生い茂る藪を掻き分けて進む田沼の姿があった。額を片手で押さえながら、青ざめた顔で歩いている。その後ろには小さな妖の姿。
 彼の少年は妖の毒気に当てられやすいと聞く。後ろの妖は物珍しさにまとわりついているだけのようだが、それにさえ体は異常を来しているようだ。難儀な体質だな、と的場は他人事のように思った。
 的場は袂から紙人形を取り出すと、それに息を吹き掛け、どこぞの払い人よろしく術を仕掛けた。ひらりと頼りなく飛んでいく紙人形は、迷わず妖の方へと進んでいく。
 特に接点もない少年だ。助ける必要など何一つ無いはずなのに、自分は何故こんなことをしているのか。的場は疑問に思った。だがそれを解明するのも煩わしくて、妖の笑い声が鬱陶しかったから、と思うことにした。

(……こういうのを陰徳というのか?くだらない)

 妖の気配がなくなったことに気付いたのか、田沼がふと辺りを見回した。的場はそれを視界の隅で認め、止めていた足を再び進める。彼が無事に森を出られるか、最後まで見届ける義理など自分にはない。
 湿り気を帯びた風が、梢を震わせて嘲笑った。耳障りな音に、思わず舌打ちをする。今日は何とも面白くない日だ。





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いいことあるよ、静司。






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