妹がいるせいか、よくしっかりしているなと言われる。だが自分自身、そうだとは思わない。むしろ思えないのが現実。 「……あーぁ」 鞄を覗きながら盛大に溜め息を吐いた北本に、たまたま近くにいた田沼が振り向いた。 「どうした?」 「世界史の宿題、忘れた」 鞄に顔を突っ込む勢いで項垂れると、田沼も隣であーぁと苦笑を零した。 「ちくしょー、やべー。今日絶対指される」 悲しいことに成績がいいとはこない北本は、教師に名指しされた挙げ句、解りませんと呟く自分を想像して顔を引きつらせた。問題の時間はこの休み時間が終わってすぐだ。いまさら足掻いても対応しきれまい。 北本は最終手段へと乗り出すべく、勢い良く顔を上げた。 「頼む、田沼!宿題写さして!」 顔の前で手を合わせて頼み込む。すると田沼は小さく吹き出して、手にしていたノートを北本の前に広げた。 「言うと思った。早く写せよ」 「サンキュー、田沼。助かった!」 「はは。間違ってても文句なしだからな」 笑う田沼からノートを受け取り、慌てて宿題を写しはじめた。心優しい彼は空いた隣の席に腰掛け、北本の作業の終わりを静かに待っている。高校生ながら、よくできた人間だ。 田沼のほうが自分よりもしっかりしているんじゃないかと思う。実際、彼も大人びた性格ゆえにしっかり者と捉えられている。自分の弁当まで自分で拵えてくるくらいだ。不思議じゃない。 だが、やはり田沼も素直にしっかり者とは言えない人間だったようだ。 「あ……それ、前回のだ。今回の、やってない」 「ぇえ!?ちょ、それもっと早く気付よ!」 「す、すまん!なんか勘違いしたみたいだ」 「あぁ……結局ダメダメかぁ……」 シャープペンを手放して、ぐったりと机に突っ伏す。田沼も自分の間抜けさに呆れ果てたようで、北本以上に肩を落としてしまっていた。机からそれを見上げた北本は、つい吹き出す。 「何やってんだろうな、おれら」 「本当だな」 見いだした共有に田沼も一緒になって吹き出して、絶望的な授業の前にも関わらず二人してひとしきり笑った。同じ立場の人間が側にいるせいなのか、おとなしい田沼が声を上げて笑っているせいなのか、何だか楽しくて仕方がなかった。 笑った後に滲んだ涙を拭う姿が、何だか可愛いと思ったのは内緒だ。さすがにこの想いだけは共有できない。 ‐‐‐‐‐ どこか抜けてる兄ズ。 |