待ちに待った昼休み。普段の学校生活における、正午のオアシスだ。西村は鼻歌でも歌いださんばかりに鞄を持ち出し開く。だがその晴れやかな気分は、早くも終幕を迎える。 「べ、弁当忘れた……」 オアシスを美しく彩るはずだった弁当は、ただ今、我が家の台所に置き去りにされているようだ。もしくは作り主の手によって消化されたか。どちらにしろ悔しいのには変わりなく、たとえ冷凍食品のオンパレードだとしても悲しい。とてつもなく。 「……あー、残念だったな」 前の席に座る田沼が、戸惑いを交えて慰めの言葉を発した。付き合い慣れた北本や、意外とツッコミが厳しい夏目ならともかく、そのいずれにも属さない田沼は言葉を選んでしまうようだった。 北本と夏目は後れてくるようで、今は西村と田沼の二人。西村はぐったりと机に突っ伏して、田沼に手を伸ばした。 「そう思うならお前の弁当くれよぅ……」 「いいぞ」 冗談半分で呟いた言葉だったので、了承の返事を聞いた瞬間、驚いて勢い良く身を起こした。 「ま、マジで?」 「あぁ。って言っても半分だけな」 そういって田沼は、都合良くおにぎり二つだった内の一つを、西村に差し出した。まるでオアシス一辺、荒涼とした荒野への一筋の小川。さらさらと細やかに流れる川の輝きを田沼から見て、西村はその手を通り越して田沼の体を強く抱き締めた。 「あぁ、神さま仏さま田沼さまっ!」 「仏にされると、困るなぁ……」 苦笑する田沼の頬が、うっすらと赤みを帯びている。西村の大げさな喜び方に照れているようだった。大人びた彼の意外にも可愛らしい一面に、西村はさらに彼の頬へ自分の顔をすりよせた。 「ちょ、西村……ッ」 「もう田沼ちょー大好き!」 西村の一言にびしりと固まってしまった田沼。西村はそんな彼の影で気付かれないように吹き出すと、何気ない振りをして彼を解放した。 ほっとした表情を見せた田沼からおにぎりを頂戴し、遠慮なく頬張る。紛れもない手作りの味に、西村の心のオアシスは甦った。 ‐‐‐‐‐ 西村は田沼の弁当を狙ってばかりだな! |