一枚、二枚、三枚。子供の頃に遊んだ花占い。小さな花弁に乗せるのは気休めの期待と不安。溜め息に乗ってふわりと飛んでいく花弁を、切ない気持ちで見つめたのはもう数えきれないほど。
 妖に狙われた過去がある。まだ記憶に新しい出来事だ。思わず巻き込んでしまった同級の男子は、それからも交遊がある。
 他愛もない交遊があるだけ。タキは溜め息を吐いた。そんな同級の男子、夏目を好いてしまった彼女の胸の内は複雑だ。

「タキ」

 穏やかな声色に名を呼ばれ、心臓が跳ねる。声の主は言わずもがなだ。

「夏目くん……」

 優しい笑顔の眩しさに、もうときめきを抑えられないでいた。

「どうしたんだ?こんなところに一人で」

「ううん、何でもない。ぼーっとしてたら来ちゃってて」

 頬に熱が集まりそうになるのを、必死で耐えた。傍らに立つ優しい気配は、容赦なくタキの心を柔らかく締め付ける。泣きたくなるほど、この友達が好きだなんて。

「……タキ?」

「え?」

「泣いているのか?」

「……ゴミが、目に入っただけ……」

 溢れてしまった感情を、そっと手で覆い隠した。指の隙間から見える景色に、慌てふためく夏目と先程飛ばした小さな花弁が一緒に映っていた。

(好き……)

 花占いなんて、子供のすること。大人になったら、この涙を忘れることができるのだろうか。感情を押し殺すことを覚えてしまうのは、とても寂しいことだけれども。
 とうとう泣き止むことのできなかったタキを、夏目は戸惑いながらも優しく頭を撫でて慰めようとしてくれた。嬉しくて、悲しくて、タキはただ火照った頬を涙で冷やそうとした。






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