つ、と人差し指を人差し指でなぞる。一瞬、小さな反応を見せた相手の指だが、逃げるという意思はないようだ。おとなしく手の甲を晒している。
 抵抗がないのをいいことに、さらに指をなぞっていく。指と指の間に割り入って、人差し指を持ち上げた。そのまま指の腹をなぞっていく。

「……夏目」

「ん?」

「おれの指で遊んでて、楽しいか?」

「んー……」

 曖昧な返事をした夏目に、田沼はそれ以上問わなかった。夏目はずっと彼の指を見ているため、彼が今どんな顔をしているかは解らない。だが彼のまとう雰囲気は最初と変わらず優しかった。
 させたいようにさせようと決めたのか、田沼は手を引っ込めない。夏目はうっすらと笑みながら、指をなぞるという行為を続けた。中指から小指まで、余すことなく。
 頬を包み込んで頬杖をついていた夏目と、手の甲に頬を当てて頬杖をつく田沼。互いの視線は互いの指先。端から見たらおかしな光景だが、少なくとも今の夏目には他人の目を気にする気持ちはなかった。
 全ての指をなぞり終え、親指を除いた全ての指を軽く掴んで持ち上げた。そしてその指の背に、自分の唇を押しつける。上目遣いに田沼を見れば、彼は酷く困惑した顔でこちらを見ていた。
 夏目は田沼の指に唇を押しつけたまま、柔らかく笑った。

(好き)

 声には出さず、唇だけを使って。
 夏目の意思に気付いた田沼は、体勢を崩して机に突っ伏した。黒髪から覗く耳は赤くなっている。咄嗟のことに意表を突かれて、かなりの衝撃を食らってしまったらしい。
 夏目は小さく笑って、顔を上げられない田沼の頭を優しく撫でた。






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