好天気に恵まれたこの日、外気温は非常に快適。社内は日当たりが好いというわけではないが、その恩恵を受けているらしい。大きなソファに実虎がうたた寝をしていた。
 司馬と別れ、一人帰社した鼎が見たのは、そんな穏やかな光景。安らかな寝顔に悪戯をしてやろうかと手を伸ばし、ふと手を止めた。無邪気な実虎の様子に、悪戯心があっという間に消沈する。代わりに膨れ上がるのは、愛情。
 実虎の顔を隠す黒髪をそっと払い、頬を撫ぜる。契約者である己の享受者。愛しい存在。今の自分の全て。自分がどれほど狂おしいまでに想いを寄せているか、この寝顔は知るまい。

「……ん……キリィ……」

 ふと零れた寝言に、鼎は苦笑した。呼ばれるたびに、胸が締め付けられるほどの歓びと幸せと切なさが押し寄せる。自分ではない自分を心の支えとして求められることは、悲しくも嬉しかった。
 身を屈め、実虎のこめかみに唇を落とす。“鼎”を求めてこなくてもいい。“キリィ”を必要としてくれるのであれば、いくらでも応えよう。いつか訪れてしまう、終わりの時まで。

「Good sleep, my dear...」

 その声を、温もりを、一心にこの身に受けたい渇望に目を逸らしながら。





この躯、朽ち果てるまで
君を愛してる。君は知らないだろうけど。






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