そこかしこで陰湿さが目立つ屋敷内で、一際輝く存在があった。ナイトレイ家の末子、エリオットだ。幼気な子供であることもそうだが、何より彼の真っ直ぐな気質が、暗澹としたナイトレイの内に光を灯している。
 突如として現れたヴィンセントという義兄を、彼は無垢な瞳で受け入れた。そのこと自体は純粋にありがたかったが、それとは別に何か妙な気持ちが沸き上がったことを記憶している。あれは何だったか。今だにエリオットと会話を交わすことのない今時分、正体は知れようもない。

「おまえ、ヴィンセント?」

 今はまだ蕾が疎らに広がるだけの薔薇園の中。名を呼ばれて我に返る。幼くも凛とした声のしたほうを向けば、エリオットが自分を見上げていた。その蒼い瞳の輝きは、薔薇の花弁の苛烈さにも似ている。
 思えば彼とちゃんと見えるのは、これが二度目だ。一度目はナイトレイに養子としてやってきたときで、初対面以来だということを思い出す。こちらにきてそれなりの日数は経っているのに、すれ違ってばかりいたのは何故だ。

「……そうだよ。何?」

「やっぱりヴィンセントだ。へやから見ておもったんだ」

 にこりと笑うエリオット。どうやらただ姿が見えたからやってきただけらしい。興味が湧いたら一直線の幼子らしい行動だ。
 だが腑に落ちないことがヴィンセントにはあった。物心がついたときから禍罪の子と怖れられてきた自分を、彼は物怖じせずに近づき、話し掛けてきた。この子供には恐怖はないのだろうか。

「君、僕が怖くないの?」

「こわい?なぜだ?」

 不思議そうに首を傾げるエリオットに、ヴィンセントは口をつぐむ。幼いながらに芯のある真っ直ぐな眼差しには、悪しきものを撥ね除ける力があった。それは無知な内の無謀な力かもしれない。だがヴィンセントには強く打たれるものがあった。

「……ふぅん、そう。ならいいんだ」

 にこりと微笑めばきょとんとされる。円らな瞳を瞬かせる様に、ヴィンセントはさらに笑みを深くした。ここでの生活が予想以上に楽しくなりそうだ。純粋無垢なこの子供が、ナイトレイの闇に揉まれてどう変わりゆくのか。楽しみで仕方がない。





を分かつ君
過る感情を良きものとするか、悪しきものとするかは……






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