多軌がクリスマスケーキを作ろうと言い出し、料理のできる田沼が構わないよと承諾。料理などしたことがないと渋った夏目に、味見役を押しつけたのは誰だったか。嬉しかったけれど。 そうして始まったケーキ作りは、多軌不在で中盤に差し掛かる。材料が足りないことに気付いた彼女が、一先に買い出しへ飛び出していったのを、止められるものはいなかった。 かしゃかしゃ、と泡立て器と金属性のボウルがぶつかる音。ホイップクリームを作る田沼の手つきは、淀みなく美しい。味見役の夏目はしげしげとその様子に魅入った。他にすることがないのもある。 「……そんなに見ても何も出ないぞ」 苦笑する田沼に、夏目は慌てて顔を上げた。 「ごめん。手際がいいから、つい……」 「そうか?洋菓子はあまり作ったことないんだが」 謙遜する田沼が抱えるボウルの中のホイップは、言葉の割に遜色がなく美味しそうだ。香る甘さも心地よさを感じてしまう。 ふと手を止めた田沼が、人差し指をホイップの中に突っ込んで掬った。真っ白いそれに塗れたしなやかな指に、目を奪われる。その指を躊躇うことなく咥えた彼の口元の画に、心も奪われる。 たかが味見、されど味見。一連の動作に俄かに興奮してしまった自分に嫌悪しつつも、田沼の手による味見なら自分もしたいと思う。さぞかし美味だろう、ホイップも、彼の指も。 「た、田沼……」 「ん?」 「おれも味見、したい」 「いいけど……、手は洗ったほうがいいぞ」 至極当然の返事に、夏目は不覚にも落胆してしまう。しかしそれを表には死んでも出さないようにして、自分の手を石けんの泡塗れにした。本日二度目の手洗いだとは、言わないことにした。 甘味料に不純物 純粋な君には適わない。 |