穏やかな日差しと柔らかな微風が人を外へと誘っている気がして、仕方なくニャンコ先生に付き合う振りをして日の下に躍り出た。先生と散歩をはじめる、静かな昼下がり。 のどかな田園風景を視界いっぱいに広げながら歩いていると、前方の坂を下ってくる田沼がいた。降りたところでくるりと方向転換をする彼は、少なくとも次の分かれ道までは夏目と同じ道を行くらしい。些細な偶然に心を踊らせた夏目は、先生そっちのけで彼の元へ走り出す。 「田沼」 「夏目。偶然だな」 夏目に呼ばれた田沼は、優しげな笑顔を日の下にさらした。夏目は嬉しくなって、つい表情を綻ばせてしまう。 「どこに行くんだ?」 「七辻屋に饅頭を買いに行こうと思って」 「本当か?おれもニャンコ先生にせがまれて七辻屋に」 「せがんどらんわー!」 草むらから顔も出さずに反論する先生に、隣で田沼が吹き出した。口元に手をやって肩を震わせる彼に、夏目もつられて吹き出した。誰かと一緒になって笑いあえる愉快さに、何だか心が浮き立ってくる。 笑いの止んだ田沼が、ふと何かを見つけてしゃがみこんだ。草むらへ手を突っ込んで、何かを摘みあげる。 「どうした?」 すぐに腰をあげた田沼の手元を覗くと、彼の手には四つ葉のクローバーがあった。その珍しさに、夏目は瞬きを繰り返す。 「珍しい、っていうか初めて見た……」 「おれも実物を見るのは初めてだ」 田沼は摘んだクローバーを改めて手のひらに乗せると、しげしげとそれを眺めた。夏目も一緒になって希有な四つ葉を眺める。傷などによる外的な要因でできるだけの、本当は特に意味のない、それ。 「何か良いことあるかも」 「あぁ、あるかも」 田沼の手のひらにある小さな幸せが、夏目をも幸せにする。それは何だか不思議なようで、しかし考えてみれば何ら不思議ではない現象。大好きな彼が幸せでいて、どうして自分が不幸を感じられるだろう。彼の笑顔一つで、こんなにも満たされるというのに。 こちらを見て幸せそうに微笑みかける田沼に、夏目は溢れだす幸せで自らの胸を満たした。外からの優しい誘惑に誘われてやってきた、穏やかな昼下がり。 君の手のひらに僕の幸せ |