夏目は学校のアイドルだ。気付いたらそんな存在になっていて、友人であるのに当たり方を悩んでしまうようになった。友人の人気は喜ぶべきなのだが、自分の身の振り方まで気を遣うことになってしまったのが困りもの。
 しかしながら田沼要、15歳の夏。そんな悩みなど吹っ飛ぶかのような出来事が、今まさに降り掛かろうとしていた。



『世界を敵に回した日』



 何でも屋上で全校生徒に何らかの告白をするイベントが催されるらしい。それだけでも好奇心旺盛な思春期たちは沸き立つのに、そこへ学校のアイドル夏目貴志が参加するとなったから大変だ。まるで芸能人がやってきたかのような騒めきに、田沼は呆然とした。
 みんなそんなに夏目の告白が聞きたいのだろうか。と思いつつ、田沼も興味津々な野次馬の一人として、グランドの人集りに紛れ込む。楽しめるイベントは楽しまなくては損だ。
 いろんな人の告白に驚いたり笑ったりと色めき立っていると、とうとう夏目の出番が回ってきたようだ。屋上から夏目が顔を出すや否や、女子のみならず男子までもが黄色い声(?)をあげた。
 やがて騒めきは止まり、辺りは何故か静まり返る。そんな中を田沼一人だけが、のんきに紙パックのジュースを静かにすすった。

「一年一組の田沼要、聞いてるか?」

 第一声に名前を呼ばれ、思わず口からストローを離した。周りの生徒がどこの誰だと自分を探している。頼む誰もおれを見つけるな、と願うものの、やがて視線は集まってくる。田沼は今すぐにでも校内に逃げ込みたくなった。
 しかし屋上から夏目の突き刺さらんばかりの視線を浴びて、田沼は逃げるに逃げられない状況に陥る。最後まで聞かないとあとで夏目に怒られそうだ。覚悟を決めて、唾を飲み込みながら夏目を見上げ続けた。
 夏目が大きく息を吸った。その瞬間、何故か背筋を悪寒が走った。

「――――田沼要ッ、おれはお前が大好きだ!おれと付き合ってくれ!」

 とんでもない告白に、手にしていた中身入りの紙パックを握り潰した。飛び出した中身のごとく爆発した騒めきと、物凄く黒いオーラをまとった視線が田沼を取り巻く。夢ならいいのにと思わずにはいられない、この現状。
 この快晴の青空よろしく真っ青になった田沼は、じり、と一歩後退った。全方位からの突き刺さるような視線に晒され、じわりと涙目になってしまう。さっき思ったときに、本当に逃げてしまえば良かったと思った。
 後々、降りてきた夏目に抱きつかれ、さらに周囲からの視線が痛いものになる。これからの長い学校生活がどうなるやら。始まったばかりの苦難に、田沼は早くも膝が折れそうになった。





世界を敵に回した日






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