田沼が着替えていると、親友が耳に息を吹きかけてきた。驚いて「ひっ…!何すんだ!」と言ったら、「そろそろ気付いて」と囁きズボンに手を突っ込んできた。 http://shindanmaker.com/188946



 一日の最後の授業が体育で、体操服のまま放課後を迎えてしまうことは、よくあることだと思う。田沼はその姿のままHRに参加、その後担任に用事を頼まれたりと、着替える間もなく放課後を過ごした。
 一仕事を終えて教室に戻ると、夏目が田沼の席に座って帰りを待っていた。一緒に変える約束をしていたのだ。

「すまん、夏目。先生に呼ばれてて」

 慌てて小走りに駆け寄る。夏目は田沼の姿を認めると、ゆるりと目を細めた。

「いや、いいんだ。おれも今きたところだし」

「そうなのか?」

「うん。おれも委員会でちょっと残ってたから」

 言いながら立ち上がろうとした夏目を、田沼は手で制した。

「まだ座ってていいぞ。着替えたいんだ」

 体操服のままで帰宅するのは、何となく嫌だった。体操服で帰る生徒などいくらでもいるのだが、それでも抵抗があるのだ。夏目はそうか、と腰を降ろした。
 田沼はジャージを脱ぎ捨てると、体操服を一気にまくり上げる。服に守られていた上半身は、外気の冷たさに鳥肌を立てた。急いで机の上に広げっぱなしだった制服のシャツに腕を通す。その冷たさにも震えるが、すぐに暖かくなってくる。
 シャツのボタンを留めると、次はズボン。さっさと脱ぎ捨てて、制服のスラックスに足を通す。やはりひやっとしたが、これはすぐに暖かくなろものだ。気にせず、ベルトを通そうとする。
 すると、ふと夏目が立ち上がった。どうしたのだろうと思い、横目で確認しつつも、ベルトを通す作業を続ける。そこへ、ふっと耳に息を吹きかけられた。

「ひっ……!な、何するんだ!」

 思わず声を荒げると、夏目はやたらと真剣な目でこちらを見た。

「田沼がいけないんだぞ。おれの気も知らないで、そんな風に、着替えたりして」

 何を言っているのか、田沼にはよく解らなかった。同性同士なのだから、着替えの一つや二つ、気にすることもないだろう。見ていて寒々しいというなら、そう言えばいいし、第一、耳に息を吹きかける必要性が感じられない。
 夏目の言葉に戸惑っていると、夏目はベルトを掴む田沼の手を掴んだ。息がかかりそうなほどに近づいては、じっと目を覗き込んでくる。

「そろそろ、気付いて……」

 悩ましげな吐息が、口元をくすぐった。






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