罰ゲームで、生徒会長に告白することになった。熱血・堅物・短気とありがちな三品が揃った彼のエリオット・ナイトレイに告白するなど、まさに前代未聞。クラスのネタどころか、全校のネタにされること間違いない。バックれてしまおうか、オズは真剣に考えた。
 どうせ単なる罰ゲームなのだ、無視したって問題あるまい。足を運んでしまった生徒会室を前に、オズは大きく頷いた。バックれよう。本人はいなかったと嘘をつけばいい。

「そこのお前、生徒会に何の用だ?」

 だが運命は無情かな。背後に響いた声に、オズは頭が真っ白になった。
 素早く再起動した頭で考える。いえ、何でもないです。今ならばそう言って逃げることも可能か。しかし振り向きかけた視界の先に罰ゲームの仕掛け人の姿が見え、全ての希望は打ち切られたのだと知らされる。運命は無常だ。
 廊下の角で彼らが無音で囃し立てる。ウザい。それ以上に今の状況がヤバい。ぎこちなく振り向いた先に見たエリオットは、早くも訝って眉を寄せていた。

「あ、のー……」

 取りあえず声を出す。エリオットはオズが話を持ち出すのを待つために、すっと腕を組んだ。威圧するような様がよく似合う人だと、まとまらない思考の片隅で思った。
 もうここは腹を括るしかあるまい。オズは生唾を飲み込む。あとで全力で謝罪すれば、大した問題にはなるまい。一部始終を見ようとしている野次馬がいては、逃げることは個人的プライドにより許されないのだ。
 キッ、とエリオットをねめつける。漢を見せろと拳を作る。あぁ神よ、願わくば最悪なことにならないことを。

「お前が好きだ!!」

 言ってしまえば一瞬のもの。恥ずかしさと悔しさで紅潮する頬がエリオットの目にどう映っているか考えたくもないが、言ったのだ。下手な運動より体力を使ったが、ミッションコンプリート。これで向こうの野次馬どもに文句は言わせない。
 しかしながら全ては終わっていないわけで、オズはどのタイミングで謝罪を切り出そうか考えた。さっさと謝ってしまうのが吉だが、少し待って反応を伺うのも有りかと、目線を彷徨わせる。だがその悩みは先方の溜め息で吹き飛ばされた。

「何だそれは。ふざけるのもいい加減にしろ。罰ゲームなら他所でやるんだな」

 邪魔だと言わんばかりに押しのけられ、オズはよろけるように道を開けた。動揺でも逆上でもない反応に、かえって呆然としてしまう。さすがは生徒会長様、一筋縄ではいかないということなのか。
 ぴしゃりと閉じられた扉を前に、しばしの脱力。やがて沸々と湧いてきた怒りに、オズは顔を引きつらせた。人がこんなにまで労力を使って、嘘とは言えども告白したのに、その反応の仕方は何だ。こちらが勝手に持ちかけた問題であることはそっちのけで、燃え上がる感情に打ち震える。
 リベンジ決行。近寄りがたい空気を醸す生徒会室の扉を、ものともせずに勢いよく開けた。もうエリオットの度肝を抜かすなり何なりしなければ、帰ることなどできない。
 教室の真ん中で一人、プリント綴じの資料を見ていたエリオットが、オズを見て煩わしそうに顔をしかめた。

「言ったはずだ。他所でやれと」

 取りつく島もない物言いが鋭い。だがそれに怖気づくような貧弱な精神は、今のオズには持ち合わせていない。跳ね返すような気合いさえある。

「誰が嘘だなんて言ったの」

 あくまでその気があるかのごとく、後ろ手で扉を閉めながら告げる。案の定、エリオットは予想しなかったと言うように目を見開いた。鮮烈な蒼い眼だった。
 そんな動揺も一瞬で、エリオットは再び顔をしかめる。先と変わらない表情のようだが、その眼に俄かに緊張が走ったのを、オズは見逃さなかった。

「人の一世一代の告白をあんな風に言うなんて、いくらなんでもないんじゃない?」

「……だったら何だって言うんだ。どうせ断られるなら、どう言ったって同じだろ」

「ふぅん……。生徒会長さんてさぁ、もしかしなくても鈍くて疎い人だね?」

 小首を傾げながら笑うと、馬鹿にしたのが伝わったのか、エリオットの頬に赤みが差した。簡単に露わにさせた怒りに、オズの口角が上がる。意外と簡単に乗せられやすい人なのだと知れた。






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