ジャック=ベザリウスとは何度か会ったことはあるが、それだけの人間だ。会話を交わしたうえでは、感じのいい青年以上の感想は抱かなかった。 そんなジャックから、一束の花が贈られた。同一種のみを使い、鮮やかな濃い紫で統一されている。目にも鮮やかな花束だ。 だからとて贈られる覚えのないエリオットは、赤子の胴回り程もあるそれを抱えて戸惑う。何かの祝日だろうかと思ったが、詳しくないために思い当たらない。 「……何なんだ?」 思わず問うと、送り主のジャックは気恥ずかしそうに苦笑した。 「うん、まぁ、私の気持ちかな」 僅かに赤みの差しているジャックの目元。花束に何か深い意味があるのを察して、エリオットは人知れず鼓動を速めた。 「イキシア。花言葉は“誇り高い”と“秘めた恋”」 鈴なりのように花開くイキシアの花弁を、ジャックが指先でそっと撫でる。花を見つめる彼の伏し目がちの眼に、エリオットは思わず目を奪われた。 「“誇り高い”君に、私の“秘めた恋”を……」 花弁から離れたジャックの指先が自分の頬へと移り、壊れ物を扱うかのように触れられる。今までにされたことのない触れ方に、エリオットは息を飲んだ。胸が詰まって、俄かに苦しくなる。 「……ッ、ジャック……」 「本気だということを、どうか理解してほしい」 額にそっと口付けられて、エリオットは身を固めた。こんなに愛情深いキスは初めてだった。 イキシアの花束と額への温もりを残して、ジャックは去っていった。残されたエリオットは、腕の中の紫をただただ見つめる。 「嘘だろ……?」 呟いた言葉は空に消えて、返ってはこない。熱を上げた体が信じられず、エリオットはその場に蹲った。 |