エリオットは歌が上手いが、それを露見させることは殆どない。歌が上手い人ほど歌いたがらないというのは、本当なのかもしれない。リーオは思った。
 そんな彼の歌声を聞ける瞬間が、いくつかある。学校での音楽の時間と、天使の家で、の二つだ。後者に至っては、ごく限られた人物のみの特権といえるが。

「ねーねー、お歌うたってー」

 少女が円い瞳を輝かせて、エリオットに歌をせがむ。服の裾をしっかりと掴まれた彼は、小さな子供に怒鳴るに怒鳴れず、渋い顔をした。
 助けを求める目線を送ってこられたが、リーオは敢えて気付かない振りをして、ぐずる子供をあやした。歌ってあげればいいのだ。子供たちを優しい眠りへと誘う、綺麗な子守歌を。

「……ッ、しょうがねぇな」

 ひょいと少女を持ち上げたエリオットは、小さな体躯をその腕に抱くと、深く息を吸った。
 囁くような小さな声で紡がれる、聖母の子守歌。狂いなく淀みなく流れるそれは、子供たちの心をいとも簡単に捉えた。リーオの腕の中のぐずっていた少年も、ぴたりと泣き止んで歌声に耳を傾ける。さすがだな、とリーオは思った。
 歌が終わる頃には、リーオの腕の中の少年も、エリオットの腕の中の少女も、すやすやと穏やかな眠りについていた。

「あんなに泣いてた子が、あっという間に寝ちゃったよ。さすがだね、エリオット」

 エリオットは恥ずかしげに舌打ちをし、少女を手近なベッドへと寝かす。気難しそうな顔をしていたが、手つきは酷く優しくて、少しだけ少女が羨ましくなった。





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某さんの妄想に触発されて。






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