今日も今日とて構ってくれないエリオットに、オズはげんなりと肩を落とした。彼の愛想の悪さには慣れたつもりでいたが、所詮は“つもり”だ。寂しいものは寂しい。 盛大に溜め息を吐いて、ソファに身を沈めた。いつもの構ってコールも言えないほどに、今日は落ち込みまくっていた。 「……溜め息なんか吐いて、鬱陶しいな」 愛しい声で、優しくない言葉を掛けられる。オズはハートブレイク的な傷心を少し深めた。 「……だって、エリオット構ってくれないしさ」 膝を抱えて、背を丸める。口にした本音は、何だか余計にオズを寂しくさせた。やはりたまには素直な優しさだとか甘さだとかが、ほしいと思う。誰もが恋人に抱く感情だろう。人は欲張りだから、隣にいるだけでは満たされない。 「……なら、どうすりゃいいんだよ」 溜め息とともに掛けられた予想外の言葉に、オズはきょとんとエリオットを見た。彼は珍しくオズに向き合って、気まずそうにこちらを見ている。 たったそれだけで、ふんわりと心が温まる。我ながら安いとは思うが、仕方がない。好きな人の目線が自分に向いていると思うと、浮かれずにはいられないものだ。 「じゃぁ、さ……ほっぺにキスして」 「……は?」 「いいだろ?それくらい……」 精一杯の甘えだった。ふざけてならそれ以上の要求もできるが、本気でとなると途端に難しくなってしまう。甘え方を知らないから余計に、オズは戸惑った。 エリオットは一瞬いつもの剣幕で拒否しようとしたようだが、すぐに口を閉じて困惑した様子で少し俯いた。躊躇うようにちらりと寄越される上目遣いに、淡い期待が膨らんだ。 やがて決心したエリオットが、ずいと身を乗り出してくる。仄かに頬を赤くした顔が近づいてくると思ったときには、自らの頬に柔らかく温かい彼の唇が触れた。 「……これで、いいんだろ?!」 先よりも素早い動作で離れていったエリオットは、さらに頬を色付かせてそっぽを向いた。その勢いのままローテーブルのティーカップに手を伸ばして、呷るように紅茶を飲む。相当恥ずかしかったようだ。 その恥ずかしい行為を、自分のためにしてくれた。オズはその揺るぎようのない事実に、口元が弛むのを押さえられなかった。憂鬱一変、幸せすぎて言葉にならない。 「嬉しいよ、エリオット!」 勢い良く抱きついたオズにエリオットはいつもの剣幕で放せとまくしたてたが、抵抗の弱い腕にオズはとうとう有頂天に達した。 ‐‐‐‐‐ 10巻のアリスに滾ったための暴挙。さすがに食わないな。 |