「お前なんか、嫌いだ、大嫌いだ」

 呟いて、ぼろりと涙が溢れた。
 泣きたくないのに泣けてくるのは、ストレスが溜まっているからに他ならない。嘘を吐くことにストレスを感じるなど、まるで純粋な子供みたいで気に入らない。この心は既に純潔とは程遠い場所まで来てしまったというのに、何故。

「エ、エリオット……?」

 突然泣きだしてしまった自分に、義兄のギルバートは困惑も顕に手を伸ばしてきた。その指先の向かう先は、目尻か頬か。エリオットは堪らなくなって、その手を弾いた。

「煩い、触るな、嫌いだと言っただろう」

 ギルバートの手を弾いた手で、とめどなく流れる涙を拭う。だが拭えども止むことを知らない悲しみに、シャツの裾が濡れゆくばかり。くそ、ちくしょう、そんな悪態と嗚咽だけを、エリオットは繰り返し口から零した。

「……何故、そんなに泣くんだ」

 申し訳なさそうに問うギルバートに、エリオットは首を振った。言ってたまるか。その思いだけが、エリオットの口を頑なに閉ざした。
 それ以降、口を閉ざしたギルバートだったが、ずっと涙の理由を知りたそうにしている。止む気配のない涙を、弾かれた手では拭うこともできず、居心地が悪そうだった。
 だが、言ってはならない。どんなに苦しくても、辛くても、素直になるわけにはいかない。自分にはその義務があると、エリオットは思っている。この義兄に狂おしいまでの恋情を抱いているなど、誰にも知られてはいけないのだ。

「ちくしょう、嫌いだ、大嫌いだ……!」

 誰も知らないうちに、この恋情よ死に往けばいいと願う。





その意味は知らなくていい
この涙の理由など知らなくても、お前は幸せになれるのだから。






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