派手な音を立てて水飛沫をあげる清流。それもそうだ。澄んだ川面を涼しげに見つめていたエリオットを、オズがそこへ突き落としたのだから。

「ッにすんだ貴様ッ!!」

 大した深さでもないから気軽な気持ちで突き落としたが、もちろん服は濡れるし髪もびしょ濡れ。エリオットのこめかみの特徴的な毛先は元気をなくしていたが、持ち主は逆に怒りを爆発させた。

「ははッ!エリオットびしょ濡れ!」

「誰のせいだと思ってんだ!!」

 川の水を蹴りあげるようにして岸に戻ろうとするエリオット。濡れて張りつく髪を掻き上げる姿が、妙に様になっている。オズはこっそりとその姿に見惚れた。

「くそッ、制服が台無しだ」

 岸にあがるなり、エリオットは舌打ちをする。素肌に張りついたシャツを鬱陶しそうに見やり、おもむろにボタンへ手を掛けた。
 第2ボタンを外そうとする手を、オズは思わず制した。濡れそぼった彼の手は冷たかった。

「んだよ」

「オレが外す」

 オズの一言にエリオットがはあ?とあからさまな声を上げたが、オズには聞く耳がなかった。

「外してあげるよ。てか外させて。外したい」

「お前、意味解んねーよ」

 まくしたてたオズに勢いを削がれたエリオットが、怪訝な声色で呟く。だがオズには他のことで頭が一杯だった。
 水に濡れたシャツが肌に張りつく様はエロいと、一体誰が言ったのだろう。まさしく名言だとオズは思う。透けたシャツから見える肌色ほどそそるものはない。常々思っていたことだが、オズは今日ほど実感したことはなかった。

「いや、やっぱ外すの勿体ないかな……」

「あ?何言って――――」

 先程から掴んだままの手を開かせると、オズは迷うことなく、シャツの下からでも解る胸の飾りに吸い付いた。

「――――ひッ……!」

 唇で触れた瞬間こそ冷たかったが、そこはすぐに熱を持つ。びくりと跳ねた体にも気をよくして、舌で押し潰そうとした。だが、そうことは上手く行きはしない。

「離れろ、このド変態がッ!!」

 強く突き放されて、背中から川へダイブしてしまう。驚きから解放されたときには既に川の中で尻餅をついていて、言わずもがな全身びしょ濡れ。オズは顔を真っ赤にして眼を吊り上げるエリオットを、一瞬呆然と見上げた。

「ッにするんだよ!」

「人のこと言えた義理か!!恥を知れ!!」

「あ!ちょっと待ってよッ!」

 叫びながら踵を返すエリオットに、オズは慌てて立ち上がった。すらりと伸びた背筋が透けて見える様に生唾を飲みつつも、平静を装って彼を追い掛ける。隣に立てば横目で睨まれるが、怒鳴られることはなかった。
 あとは夜のお楽しみかな、とオズはこっそり舌なめずりをした。






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