エリオットがソファに深く腰掛けながら、何やら浮かない顔をしていた。ぼんやりと、思い出したように眉を寄せては、次の瞬間、疲れたようにそれを解く。

「エリオットくんは何を思い悩んでいるのかな?」

 そんな彼の背をソファ越しから抱き締めながら、ジャックは何気なく問うてみた。一瞬、身を強張らせたエリオットは、すぐさま硬直を解いて迷惑そうに自分を仰ぎ見る。

「んだよ。……別に悩んでなんかねぇけど」

 ふい、とさも悩みがありますよと言わんばかりに、顔を背けたエリオット。ジャックはそんな彼の隣へと移動し、身を寄せて腰掛けた。

「そんな顔で言われても、信じがたいけどね」

「どんな顔だよ。つか悩みのなさそうな面してるお前には言われたくねぇな」

「ひどいなぁ」

 一連の会話に笑みを零すと、エリオットが眉間にぐっとしわを寄せて横目で自分を睨む。だがすぐに諦めたように表情を緩めて息を吐いた。

「別に、何か頭回んねぇなと思って」

「回らない?」

「思考がまとまらないっつーか……混乱とまでは行かねぇけど、頭ン中ぐちゃぐちゃしてる感じ」

 ぼんやりしたり顔をしかめたりしていたのは、頭の中の整理がつかなかったからのようだ。エリオットは背もたれに頭を乗せ、だらしない顔で天井を仰ぐ。

「だったら考えることを放棄してしまえばいい」

 ジャックの一言に、エリオットは何事かと顔を自分へと向けた。

「思考がうまく働かないときは、無理に動かすことはないさ」

 ジャックは投げ出されているエリオットの手を取り、その指と指の間に自分のそれを滑り込ませた。パズルのピースをはめるかのように手のひらを合わせ繋げば、彼は薄い唇を引き結ぶ。

「たまには……そう、たまには、私のペースに合わせてみてもいいんじゃないかな?」

 蒼い瞳に自らの笑みを映してみせると、彼は二、三度目を瞬かせた後、げんなりとした表情を見せた。

「お前のペースに合わせるなんざ、御免だな……」

「何でだい」

「お前にはもうペース狂わされまくってんだよ」

 仄かに頬を染めたエリオットに、握り返される繋ぎ合わせた手。どうやら自分は結構、彼の中に入り込めているらしい。彼の狂ったペースはつまりそういうことで、ジャックは思わずだらしない笑みを零した。






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