「な、な、な、なんじゃこりゃぁぁああああ!!!!」 突如として響いたエリオットの叫びに、さすがに驚いたリーオは彼がいるはずの洗面所に飛び込んだ。怒鳴りはするが叫び声はあげない(同じと言われたら元も子もないが)彼が叫んだのだ。何か起きたのだろう。 洗面台の大きな鏡の前で、わなわなと身を震わせている彼。鏡に映る驚愕で蒼白とした顔と、些細な違和感。 「エリオット、君……」 「何で……ッ、何でオレの頭に猫の耳が生えてんだぁぁああああ!!!!」 その叫びは至極真っ当だとリーオは思った。 「それって本物なの?」 色素の薄いエリオットの髪の間から覗く、綺麗に尖った三角の耳。彼が叫ばずともそれは猫の耳だった。毛皮はもちろん彼の髪と同じ色。リーオの声に反応してぴくりと動いたのを見て、本物だと確信する。 手触りはどんなものだろうと触れてみると、別段普通の猫のものと変わりはなかった。なめらかで、柔らかい。 「んだよ。あんまり触んな」 触り続けていると、エリオットは耳を伏せながらは身を捩って逃げた。くすぐったいのだろうか。 「つかそれより何でオレの頭に猫耳生えてんだよ?!」 我に返って再び声を荒げるエリオットに、リーオはやる気のない頭を捻ってみた。 「さぁ……、変なものでも食べたんじゃない?」 「学食しか食ってねぇよ!」 「誰かに毒を盛られたとか」 「普通の毒ならともかく、猫耳になる毒を盛られる心当たりなんてねぇよ!」 「じゃー解んないな」 埒の開かない考えに、リーオは考えることを放棄した。何せ兆しも何もなしで発症(?)したのだから、理由や原因が解るはずもない。聞き込みでもすればもしかしたら何か解るかもしれないが、たかが猫耳にその労力を費やす気が起きない。 エリオットは横で、歯軋りしながら悔しがっている。顕になった歯並びからは、通常よりも長くなったようにみえる犬歯が目立っていた。まるで本当に猫になったみたいだと、リーオは思った。 「猫みたいだね、エリオット」 「ぁあ?!ふざけんなッ!」 ‐‐‐‐‐ ぶっちゃけ猫でも犬でも何でもいい。 |