じっとりと湿った地下室に、爛々と光る二つのセルリアンブルー。彼の少年が纏うフロックコートは既に至る所が破れ、肌も傷ついているというのに、その眼差しは傷一つ負っていない。
 シャルロットは唇を湿らせた。
 片腹を抱えつつも気丈に黒き剣を手に立つ、ナイトレイの令息。勇ましいといえば良いのだろうかその身を、獅子を模したチェインが薙ぎ倒す。
 シャルロットは壁に寄り掛かるようにして崩れた少年を、微笑みながら見つめた。

『諦めが悪いのねぇ、坊や。うんって頷くだけで、もう痛い目に遭わずに済むのに』

 立ち上がる力を失ってしまった少年に、シャルロットは語る。腰を折ってその蒼い眼に映り込めば、彼は尚も鋭い視線でシャルロットを射抜いた。

「ふざけるなッ!誰が大罪人の言うことなど聞くか!」

『ひっどーい!私はただグレン様の命令に従っただけなのにー』

 シャルロットは頬を膨らませて見せたが、少年は相貌も気迫も緩めなかった。絶対的不利の立場にいるにもかかわらず、絶望の一欠片も持たない彼に、口角が釣り上がる。

『残念だわ』

 肩の僅かに変色している部分に、ヒールを強く押し当てた。傷を抉るがごとく全体重をそこに乗せれば、少年は痛みに仰け反り激しく呻く。悲鳴にもならない声に、シャルロットは目を細めた。

『私のものになってくれれば、その身体隅々まで可愛がってあげるのに』

「ッ、身の毛も弥立つ、話だな……ぐぁッ」

 苦痛に喘ぎながらも強気な少年に、シャルロットはころころと嗤った。小動物の威嚇のような虚勢は、疎ましさを通り越していっそ愛しささえ覚える。馬鹿馬鹿しいまでに高いプライドが可愛らしい。

『よぉく聞きなさい、坊や。坊やに拒否権はないの。だからさっさと頷いちゃいなさい』

 肩に乗せていた脚を降ろし、彼の前髪を鷲掴んで顔を上げさせた。痛みに歪む目元の黒子に、ぞろりと舌を這わす。

『早くおネェさんのものに、なっちゃいなさい』





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