昔から妖の毒気に当てられやすかった。それもそのはず。田沼は生まれながらに人ならざるものを身の内に宿すことのできる、器としての能力を有していたからだ。これはひどく稀なこと。
 器としての能力。それは妖からの一方的な憑依を許すことではなく、自らの意志で妖を宿し、宿した妖の能力を意のままに操ることができること。妖を式にすることとも違うその特異性は、関連業界で注目の的となっている。
 田沼が毒気に当てられやすいのは、自身が普段より妖の受け入れ態勢できており、無意識のうちに常から毒気を取り入れているからだ。生れ付きの能力であるために、その辺の制御はとても難しく、一生付き合っていかなければならない障害となっている。だが対策を練っていないわけではない。
 自身にその力があることを聞かされたのは、中学に入ってからだった。それまでは無意識の憑依を繰り返し危険だったため、父の手によって能力を封じられていた。制御の意志がない憑依は自身の人の理(ことわり)を壊し、妖化してしまうという。当時はピンと来ない話であったか、今思うと身の毛もよだつ話だ。
 それより父からは、自らの身を清める方法を少しずつ教わった。だが妖を制御する方法は、欠けらも教わらなかった。父は自分が妖を身に宿すことを良くは思っていないようだったし、田沼自身も能力を使いたいとは思っていなかったからだ。

「聞食せと恐み恐みも白す……」

 身を清める祝詞の詠唱を終え、一息つく。ふと外を見れば日が大きく傾いており、大禍時を迎えているところ。憂鬱な心持ちで考えるのは、自分の心境の変化だ。
 器としての能力を疎ましく思っていた。なくなればいいとすら思っていたこの力を、夏目と出会った今、彼のために使えないかと思い始めている。恐れさえ抱いていた能力を、たった一人のために求めるようになるなんて、愚かしいと解っているが。
 だがそれは決して口にすることはできない願望でもあった。使えるようになるためには、父の協力がいる。能力自体の行使は自力でできるとしても、父の手によって施された封印は父でしか解くことはできない。そのために父に相談を持ちかけることは、心配させることと同意義で、田沼としては絶対に避けたいことだ。

「要?」

 不意に名を呼ばれそちらを見やれば、父が少し怪訝そうに田沼を見ていた。

「父さん……」

「ぼんやりとして、どうかしたか?」

 問うてくる父に、田沼は一瞬、言葉を詰まらせる。だが出てくる返事は最初から決まっていた。

「……何でもないよ。夕飯どうしようか、考えてただけ」

 そうか、と表情を弛ませた父に、田沼もそっと笑う。たった一人だけの身内である父に、隠し事をするのは心苦しいところがあったが、言うわけには行かない。元より叶わぬ願いとして、諦める他はない。それが一番だ。
 小さな胸の痛みとともに、自らの望みから背を向ける。能力の真の恐ろしさを知らぬまま、それを眠らせ続けた。





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厨二病丸出し。もう設定忘れちったよ。






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