束にした深紅のバラを手渡したとき、心底軽蔑した目線を向けられた。だがそれは予想の範疇だったため、別段問題はない。

「貴方の考えることは本当に解らない」

 ぽつりと呟かれた的場の言葉に、名取は笑みを零す。ただ彼を思ってバラの花束を買いたかっただけだと正直に告げたら、彼はなんと思うだろうか。
 和装が多い的場に西洋の花はどうかと思ってはいたが、意外と似合うものだと目の前の光景を眺めて思った。深紅を眺めながら伏し目がちに溜め息を吐く姿など、なかなか様になっている。

「何が目的ですか」

「特に意味はないので、気にしないでください」

「はあ?」

 隻眼を疑問の形に歪めて、的場は気の抜けた声を発する。顔を上げた瞬間に揺れた黒髪から、ダマスクの強く甘やかな芳香が漂った気がした。





‐‐‐‐‐
名取に薔薇は似合うが、的場には似合わないことを理解した。






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