「……何の真似です?」

 我に返ると、目の前には畳とそこに寝転ぶ的場。自分はそんな彼の上にいて、目付きを鋭くさせている彼を見下ろしていた。
 程なくして的場がただ寝転んでいるのではなく、自分が何らかの理由で彼を押し倒したために、今の状況になっていると理解。では何故、自分は彼を押し倒したのかと、呆然としてしまった。

「早く退いてくれませんか。いつまでも同性に押し倒されたままでいたくないんで」

 ぐ、と肩を押されて、意識が的場へと向く。このまま退いてもよかったが、本能がそれを拒絶したために頷くことはできなかった。

「嫌です」

 肩を押す腕を捉え、畳に縫い付ける。骨張った白い手はしなやかさも備えていて、酷く奇麗なものに見えた。
 空いている手で艶やかな黒髪を撫で、白い頬を掠め、指先で薄い唇をなぞる。一連の動作に微かな興奮を覚え、体温が僅かに上昇した。誰も触れたことのないものに、自分だけが触れているような昂揚感。
 酔い痴れていると、的場がその口角を皮肉の形に持ち上げた。妖艶な空気すら漂う嘲笑だった。

「貴方ごときが、的場家当主である私に夜伽の手解きでも?」

 愚かしいといわんばかりの口調に、燻るばかりだった劣情に火が点いた。そういえば的場を押し倒したときも、この感覚があったことを思い出す。
 激情のままに的場の合わせた襟元を開くと、切れ長の済ました眼が見開かれる。いい気味だと、吹き返した昂揚感に名取は口角を上げた。

「そんな生意気な口も叩けなくしてあげますよ」

「ほう、面白い。ではやってもらいましょうか」

 挑発に挑発の応酬。恐ろしいまでに美しい弧を描いた唇が、名取の全神経を麻痺させる。倒錯的な光景に、ただ目眩がした。






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