実質、それは僅かなものだ。なのに身体の奥深くを抉るかのように突き刺さる熱に、的場は息を詰まらせた。 ままならず途切れ途切れになる呼吸に、目の前の男に罵声を零すのも億劫になる。だが止まらぬ突き上げに声を押し止めることはできず、喉からは擦れた鳴き声が不様に発せられるばかり。それは我ながら気色の悪いものだった。 「貴方でも、そんな顔、できるんですね……ッ」 忌々しく我が体に覆い被っている名取が、快楽に浮かされた顔で笑む。その頬の辺りをず、と守宮が這っていった。 的場はそれに何も答えず、顔を横へ逸らせた。名取の笑みは、客観的に見れば至って普通のそれだったが、己の主観からすれば気味の悪さが際立つ。嫌悪して然るべき人間を抱いて彼は、愉悦の眼差しを向けるのだから。 しかし名取はそれを許さず、無理矢理正面を向かせて唇を重ね合わせてきた。侵入してくる舌は、まるで蛇のように咥内をのたくる。体内を這いずる他人の意志に込み上げてくる吐き気を、的場はどうにか押さえ込んだ。 「……ッ、く……ッ」 口を離すと同時に、名取は小さく唸って達した。体内に放たれた精に嫌悪するも、自身が女性でなくて良かったと安堵する。胎に子を孕む女性だったら、今この瞬間どんなに絶望したことだろう。 だからとて許せるはずなどない。男としての矜持を打ち砕かれた屈辱は、『的場』の名を汚されると同等の憎悪を生み出した。無理矢理上げられた熱も急激に冷めるほど、負の感情が心の内に競り上がってくる。 「貴方、殺してあげます」 名取が的場に孕ませたのは、殺意という名の胎児。我が内に生まれた鼓動を聞きながら、的場は名取を静かに見据えた。 |