田沼は重たそうに俯いていた顔を上げ、真摯な眼差しでこちらを見る。切なさを独特の艶に変えてしまう彼の黒い目に、夏目は一瞬で捉えられた。

「夏目、おれを……さらってくれないか」

 その一言に体が跳ねた。呼吸を忘れ、考えることも忘れ、夏目はただじっと田沼を凝視した。
 本気で誰かをさらいたいと思った。このまま彼の手を強引に引っ張って、誰の手も届かない場所へ行きたくなった。






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