「…あ?何だまだ居たのかよ」
教室に戻ると新羅と門田がいた。
「んーまぁちょっとね……あ、そうだ」
はいコレ、と渡された袋からは甘いチョコの香りがした。
「それ臨美からね」
「………は?」
「本当は僕が君は他の人から貰ってたから要らないでしょって事で臨美から貰ったんだけど、どうせだし静雄にあげるよ」
僕が貰ったんだからどうしようと僕の勝手だしね、と笑う新羅を横目に俺は袋を開けた。つうか彼奴見てたのかよ……。
「こりゃあ…トリュフか」
袋を開けると箱に4つほど綺麗にトリュフが置かれていた。すると俺の言葉を聞いた新羅がチョコを覗き込んでくる。
「あれ?何か静雄のチョコ僕達のと違うね」
「え?そうなのか?」
「うん。僕が貰ったチョコは市販のチョコでそのままの箱に入ってたんだけど…門田君もそうでしょ?」
「ああ…普通に売ってるチョコだったな」
「でもさ、そのチョコって何か手作りっぽいよね」
手作り…?彼奴が俺に?
何で新羅や門田は市販のチョコなのに俺だけ……。
「何で君にだけだけ手作りチョコなんだろうね」
「…知るか。どうせ嫌がらせだろ」
「君への嫌がらせなら僕にやる必要があるのかな」
「…………」
気付けばチョコを持ち教室を飛び出していた。
「あーあ……失恋、かぁ………」
公園にあるベンチに座りながら呟く。
「あのチョコ新羅にあげるんじゃなくて自分で食べれは良かったかも……折角の手作りだったのに……」
「そうか、やっぱり手作りだったのか」
後ろから聞こえるはずの無い声が聞こえ慌てて振り返れば予想通りシズちゃんがいた。
「な、んで…シズちゃんが……」
「コレ」
シズちゃんの手には新羅にあげた筈のチョコがあった。
「な、何でシズちゃんが持ってんの…!?」
「新羅に手前からって貰った」
新羅のバカッ……!
頭の中で次新羅に会ったらどんな嫌がらせをしてやろうか考えていれば、いつの間にかシズちゃんは私の目の前にいた。
「で、何で俺にやるチョコを新羅にやったんだ?」
それもバレてる……!
「別に…私がシズちゃんにあげるつもりだったチョコを新羅にあげてもシズちゃんには関係ないじゃない…」
「じゃあ何で俺にくれなかったんだよ」
「………………」
「黙ってねぇで何か言「うるさいっ!」」
シズちゃんの言葉を遮って気付けば叫んでいた。
「理由なんてどうでもいいじゃない!シズちゃんだって私からのチョコなんて要らないでしょ!?」
「お、おい……」
「それにもうチョコ貰ってたじゃん!それで十分でしょ!?」
「手前、見てたのか…?」
しまった、墓穴を掘ってしまった。それでも私の口は止まらなかった。
「そうだよ見てたよ見ちゃったよ!あ、ごめんね?嫌いな奴に見られたくなかった?私だって見たくなかっけど偶然なんだからしょうがないじゃない。あ、それと」
言葉を切り手を差し出した私にシズちゃんは意味が分からないような表情をしていた。
「どうせチョコいらないんでしょ?だったら返して」
「は?手前何言って……」
「良いから!早く返して!」
シズちゃんは有無を言わせない私に何か言いたげな表情を浮かべていたが返してと言ったチョコの箱を徐に開けチョコを一粒取り出した。
「ちょっと何して……!」
「チョコ返してほしいんだろ?だったら返してやるよ」
「へ?んぅ…っ……」
突然シズちゃんがチョコを口に含んだと思えば一気に近くなった距離と唇に何かが触れる感覚。
「〜〜〜〜っ!!」
それがキスだと気付くのに時間はかからなかった。
「やっ、シズちゃ、んん…ッ……」
「……っ………」
「んあッ……はぁ、ん…」
私の口内に入ってきたシズちゃんの舌からチョコが渡ってくる。
返すってこういう意味かよ……!
顔を背けようとするも後頭部を強く押さえられてるため出来なかった。
「ぷはっ…!はぁ、はぁ…っ……」
「…っ……臨美……」
チョコが完全に溶けた頃に漸く唇が離れ荒く息をしながらシズちゃんに寄りかかる。
「な、んで………?何でキスなんかしたの…っ……?彼女いるのに……」
「は?彼女?…何の事だ?」
え?とシズちゃんを見ればそちらも自分と同じように何の事か分からないと言った表情で此方を見ていた。
「え、だってシズちゃん告白されて付き合う事にしたんじゃ……」
「はぁ?確かに告白はされたけど好きな奴がいるっつって断ったよ」
「え、あ…そうなんだ……」
てっきり付き合う事になったシズちゃんが付き合ってなかった事を喜ぶべきか、シズちゃんに好きな人がいることを悲しく思えば良いのか、よく分からなかった。
「ふぅん、シズちゃん好きな人いたんだ……それじゃあやっぱりチョコいらないじゃん。はい返して」
「嫌だね。折角好きな奴から貰えたのに返すわけねぇだろうが」
「……へ?」
シズちゃんの言葉に顔を上げれば顔が真っ赤だった。
「だからだな、その……俺は手前…臨美の事が好きだ」
真剣な目で見つめられながら、まさかの告白。
「………嘘だぁ」
「嘘じゃねぇよ」
「え………マジ?」
「マジだ」
思わず顔が真っ赤になる。
「手前はどうなんだ?」
「どうって……」
「俺のこと……好きか?」
そんな、好きかなんて聞かれたら……
「……好きだよ。ずっと前から好きだった」
言った途端、強く抱き締められた。
「あー…何かすっげぇ幸せだ……」
「こっちは少し苦しいんだけど」
私が遠回しに"離してくれ"と言ったが全く聞こえてない様子だった。
「臨美……来年も手作りチョコくれよな」
「来年だけじゃなくて別れるまで一生渡してあげるよ」
「誰が別れるかよ」
そうして、お互いに顔を合わせ笑い合いながら絶対に破れる事のない約束を交わしたのだった。
20110214
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