言葉にしてみれば | ナノ

 







「…ん…………」


ふと目を覚ますとまだ夜中だった。ゆっくりと上半身を起こすとズキッと腰に痛みが走る。……そういえば昨日はシズちゃんに抱かれてたんだった。


俺とシズちゃんの関係は所詮セフレというものだ。だけど決定的に違うとしたら俺がシズちゃんに恋愛感情を抱いてるということ。
隣を見る。シズちゃんはいない。それは何時もの事だった。ただ今日は普段より早く起きたにも関わらずシズちゃんはいなかった。


「夜中にはもう帰ってるのかなぁ……」


ふと気付く。身体は綺麗にされていた。


「好きじゃないならこんな事しないでよ……」


勘違いしたくなるじゃんか。


俺はシズちゃんに恋愛感情を抱いているがシズちゃんにとって俺は唯の性欲処理なんだろう。それならば綺麗にしなくても構わないのに。いつも起きると身体は綺麗にされている。まぁ身体を壊されたりしたら抱けないからなんだろうけど。


元々この関係を誘ったのは俺だった。あれは俺達がまだ高校生だった頃、俺が既にシズちゃんに恋してた頃、その日は普段のようにシズちゃんと追い掛けっこをしていたが珍しく壁まで追いやられてしまった。


「観念しろよ臨也君よぉ」
「やだなぁシズちゃん、見逃してよ」
「俺が逃がすと思うか?」
「全く思わないね」

そう言えば目の前にいたシズちゃんの首に腕を回す。シズちゃんは驚いたように目を見開いていた。


「ねぇシズちゃん……俺とセックスしようよ」


するとシズちゃんは更に驚いた表情をすれば何か言いたげに口を開いたが俺は何か言われる前にシズちゃんの口を塞いだ。最初は戸惑った様子のシズちゃんも結局は俺を抱いた。


あの日から今日までずっと関係が続いている。


正直まだこの関係が続いていることに自分自身が驚いてる。シズちゃんなら色んな女が寄ってくるのに。けどシズちゃんは女を抱くと壊してしまいそうで怖いんだと思う。俺なら乱暴に扱ったって大丈夫だし男だから妊娠の心配もない。所詮は便利な性欲処理機って所かな。


「……シズちゃん………」


小さく相手を呼ぶ。けれど本人がいないから来るはずもなく。


「シズ、ちゃん………」


愛されたいなんて、願ってはいけない。もし言ってしまったら今の関係が崩れてしまう気がした。どうせ愛されないのなら身体だけの関係でも構わないのに。


「辛いよ、シズちゃん…」


思っちゃいけない、思っちゃいけないのに………


「シズちゃん…好き、だよぉ………」


言葉にした途端に目から流れた涙を手で拭う。大丈夫、シズちゃんはいないからバレる心配はない。


「お願いだから愛してよ……」
「ああ、愛してやる」


え?と声を上げる間も無く抱き締められた。途端に煙草の匂いが漂う。


「な、んで、帰ったんじゃないの……?」
「こんな夜中に帰るわけねぇだろが。ベランダで煙草吸ってたんだよ」
「嘘………」


ベランダは寝室に近い。きっと今までの俺の言葉は全部聞こえているだろう。一気に血の気が引いていく。それと気になる事が一つ。


「愛してやるって…どういう事……?」
「そのまんまの意味に決まってんだろ」


若干頬を赤く染めたシズちゃんが恥ずかしそうに言う。意味が分からない……。


「……別に無理して言わなくて良いよ?」
「…ぁあ?」


シズちゃんは俺の言葉に眉を寄せる。


「だから、そんな嘘言わなくていいから。ちょっと今まで通り抱いて良いから」
「手前……ふざけんなよ」


途端に睨まれたと思えば頬を相手の両手で包まれ至近距離で目線を合わせられる。一体何なんだろうか。てか顔が近い。


「いいか、一回しか言わねぇからしっかり聞いとけ」
「う、うん……」



「俺は手前の事が好きだ」



一瞬、言葉の意味が分からなかった。


「……………え?」


嘘だ、嘘だ嘘だ…―――


「嘘だ………」
「嘘じゃねぇよ」


真剣な表情で見つめてくるシズちゃんから目線を逸らすこと出来なかった。


「本当は高校ん時からずっと好きだった。でもどうせ片想いだと思った。けどあの日、手前から誘われて正直すっげぇ嬉しかった」


相手の言葉を聞く度に目から涙が溢れる。


「身体だけの関係だって分かってた。でも例え身体だけでも臨也と愛し合いたかった」


シズちゃんは言葉を紡ぎながら指で俺の涙を拭ってくれた。


「だから臨也が好きだ、って言ってくれて本当に嬉しかった」
「シ、ズちゃ……」


そのままギュッと抱き締められる。暖かいな………。


「…俺も、ずっとシズちゃんの事が好きだった……」
「ああ」
「ずっと、愛して欲しかった…っ……」
「……ああ」


俺はシズちゃんの胸に顔を埋めて泣いた。シズちゃんは黙って俺の頭を撫でてくれた。


「ねぇ…本当に俺何かで良いの?」
「今更何言ってんだよ。手前の相手出来る奴なんて俺しかいねぇだろ」
「…フフッ、そうだね……シズちゃんの相手出来るのも俺くらいじゃない?」


笑いながら言えば、そうだな、とシズちゃんも笑った。




その日、俺達は初めて手を繋ぎ一緒に寝た。
朝目が覚めたときに君が隣にいると信じながら。



20110122

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