「悪い、仕事あるから一緒に過ごせねぇ」
「何だよ…シズちゃんの馬鹿」
折角のクリスマスなのに…
そう思いながら俺は膝に顔を埋めた。
事の発端は数時間前、今日はクリスマスということもあり俺は恋人であるシズちゃんと一緒に過ごしたくて電話をした。
そして電話に出たと思ったら、あの一言。
「恋人より仕事を取りやがって……」
因みに今、俺はマフラーも巻かず池袋駅前の待ち合わせ場所にも人気な噴水に座り込んでボーッとしている。
周りは夜中という事もあってか人は昼間よりかは少ないものの残業帰りのサラリーマンが前を通りかかったりした。しかも直ぐ近くにはラブラブカップルがいる。
あいつら人の気も知らないで……
なんて苛付きながら小さく溜め息を吐いた。
何て最悪なクリスマスなんだ、と思いながら気分は下がっていくばかりで。池袋に居る理由だって、もしかしたらシズちゃんが来てくれるかも、なんて淡い希望を抱いているから。でも、そう考えて池袋に来てから2時間は経っていた。手はキンキンに冷えて鼻先も多分赤くなっている。
時刻を確認する。23時50分、もうすぐクリスマスが終わる。シズちゃんも仕事は終わってる筈だ。なのに何の連絡もない。もしかしたら、もう家に帰って寝てるかもしれない。シズちゃんなら有り得る事だ。
「ははっ……結局会いたいのは俺だけって事か……」
そう考えたら泣きなくなってきた。でも絶対に泣いてやるもんか。シズちゃんに関する事で今は絶対に泣きたくない。
よし、もう帰ろう。
そう思い立ち上がろうと腰を上げようとすれば下に向けていた視線に誰かの両足が映り込んだ。
「こんなとこに居たのか……」
「…シズちゃん」
顔を上げると走って来たのか息の荒いシズちゃんが立っていた。
「手前の家に行っても誰もいねぇし試しに俺ん家に行ってもいねぇし…まさかと思って駅まで来てみりゃあ…やっと見付けた」
「はは…君の家に俺が行くとでも思ってたんだ」
「ああ」
小さく笑って言えばシズちゃんは真面目に頷いた。
「鼻真っ赤だぞ手前。マフラーも手袋もしてねぇし」
何時間いたんだよ、というシズちゃんの言葉に素直に2時間ぐらい、と答えたらシズちゃんは僅かに眉を寄せた。
「よし立て、帰るぞ」
そう言い俺に手を差し伸べてきた手を俺はその手を無言で握った。シズちゃんの手は俺と同じ位冷たかった。
シズちゃんは握った手を自分のポケットの中に突っ込むとで新宿とは反対方向に歩き出す。
「…ねぇシズちゃん、そっち俺ん家の方向じゃないんだけど」
「あ?何言ってんだ手前、俺の家に行くに決まってんだろ」
「あ、そう………」
当たり前の様に言うシズちゃんに何を言っても無駄だろうと俺は素直に歩いた。
「…悪かったな、クリスマス一緒に過ごせなくて」
「ああ………」
今はもう0時を過ぎていてクリスマスは終わっていた。その事を相当気にしていたらしく珍しく謝ってきたシズちゃんに俺は小さく笑みを浮かべて不意打ちで頬に口付けた。
「んなっ……!!」
シズちゃんは一気に顔を真っ赤にする。
「今回の事は特別に許してあげる。その代わり……」
昨日の分、今日しっかり埋めてよ?
俺の言葉にシズちゃんは言葉を返す代わりに俺の手を一層強く握り締めた。
20101224
今日はイブだけどクリスマスという事で
Back
TOP