「はぁ…最悪だ」
異変に気付いたのは今日の朝だった。目が覚めると妙に怠く頭がボーッとする。
最初は寝起きだからだと思い気にしていなかったが、その状態が昼まで続き更に酷くなっている気がしたため、もしかしてと思い体温を計ったのだが…
「38.7℃…完全に熱だな」
熱なんて滅多に罹らないため実際に罹ると想像以上に辛い。
だが今日は池袋で大事な取り引きがあるため休む訳にもいかなかった。
「シズちゃんに会わなきゃいいけど…」
もし会ったら確実に殺られるだろうと思いながらも臨也は少しふらつきながらも池袋に向かった。
無事取り引きが終わり池袋の街を歩いている臨也は熱が上がったのかフラフラな状態で歩いていた。
…これは本格的にヤバいな……
新宿の自宅まで辿り着けるか心配になっていると、
「いーざーやー君ー。池袋には来んなって言わなかったか?臨也君よぉ」
「…最悪だ」
今、最も会いたくない奴に会ってしまった。
「シズちゃん…悪いけど今君に構ってる暇はないんだよね、だから今回は見逃してよ」
「そうか、じゃあ死ね」
「話噛み合ってないし…」
思わず溜め息を溢せば、急に目の前が歪んできた。
――あ、こりゃ倒れるな。
朦朧とする意識の中、最後に見たのは目を見開いている静雄の姿だった。
「――…ん……」
目が覚めると見覚えのない部屋にいた。臨也はゆっくりと上半身を起こすと誰かのベッドの上におり、やっぱり部屋は見覚えがなかった。
だが僅かに煙草の匂いがする。
「あ、起きたか?」
あまりに聞き覚えのある声にそちらを向けば――案の定、静雄が立っていた。
「…聞きたいことは沢山あるんだけど、先ずはここどこ?」
「俺の家だ」
相手の返答に、やっぱり…と思いながら臨也は改めて静雄を見た。
「あのさ、じゃあ何で俺は君の家に…しかもベッドにいるのかな?」
「…テメェ覚えてねぇのか?」
静雄の話によると、
・会って暫くしたら突然俺が倒れた。
・流石に慌てて駆け寄れば俺の肌が熱く、熱があると気付く。
・取り敢えず新羅に連絡を取るも邪魔だと直ぐ電話を切られ、その場に放置するわけにもいかず一旦自分の家に連れてきた。
というものだった。
……取り敢えず新羅後で殺す。
俺が僅かに殺気立たせていると静雄が言った。
「大体熱あんのに池袋に来てんじゃねぇよ。しかも39.2℃とか高熱じゃねぇか」
あ、昼に比べて熱上がってる。
呑気に考えていると一つだけ気になる事を聞いた。
「ねぇシズちゃん、何で殺さなかったの?」
「…あ?」
「だってさ、せっかく俺を殺せたのに自分の家に連れてきて…ねぇ何で?…あ、もしかしてそんな選択肢思い付かなかった?」
「………」
無言と言うことは図星なのだろうか。臨也は可笑しそうに笑みを溢せば静かに言った。
「…別に殺してもいいよ?」
「…は?」
静雄は呆気に取られた様子で臨也を見た。まぁ、まさか相手の口から「殺してもいい」という言葉が出るとは思ってなかったのだ。
「だから、殺してもいいって言ってるの」
「テメェ、何言って…」
「だって俺の事嫌いなんでょ?じゃあ今が俺を殺す絶好のチャンスじゃないか。…さぁ、殺すなら今の内だよ?」
そう言い両手を広げる臨也に静雄は無言で近付くと、そのまま臨也の頭を打った。だが静雄に打たれると相当痛い。
臨也が打たれた部分を手で押さえていると、
「俺は弱ってるテメェを殺す気はねぇ。」
如何にも静雄らしい言葉に臨也は思わず笑ってしまった。
「ははっ、シズちゃんらしいね」
「うっせぇ取り敢えず寝てろノミ蟲が」
乱暴に毛布を掛けられれば仕方ないと素直に横になるも不意に人肌が恋しくなりいつの間にやら無意識に静雄の手を握っていた。
「臨也…?」
「…あ、ごめん…」
直ぐに謝り手を離せば逆にその手を握られる。
「…テメェが寝るまで握っといてやる」
「……ありがとう」
珍しく礼を言い小さく微笑めば若干相手の顔が赤い気がしたが気のせいかと思い特に気にはしなかった。
「んだよ……一瞬可愛いとか思っちまったじゃねぇか……」
そう呟く声は俺には聞こえなかった。
…結局、臨也が眠りから覚めてもその手は握られたままで静雄はベッドに寄りかかるようにして寝ていた。
「…ありがとう、シズちゃん」
臨也は静かに言うと少しだけ握る手にギュッと力を込めて再び眠りについた。
20101028
王道の風邪ネタを書きたくなり書きました!
つい長くなってしまった;;あたしが小説書くと大体が長くなります←
無意識に手を握る臨也にキュンとくる←
Back
TOP