一二三が仕事に行ってから、数時間が過ぎた。神影はリビングのソファで毛布にくるまりながら横になって、眠ることもできずぼんやりと時間を過ごす。

ガチャリ、と玄関のほうから音がした。次にはバタンと閉まる音がして、近づいてくる足音と主に、リビングの扉がひらく。


「ただいま・・・・・・」


現れたのは仕事からやっと帰ってきた独歩だった。シャツはくたびれ、表情や声色からひどく疲れているのがわかる。
「おかえり、なさい」神影はソファから起き上がり、背もたれ越しに独歩に目を向ける。独歩はビクリと肩を揺らして神影を見た。


「神影か・・・・・・ビックリした。ね、寝てなくていいのか? 体調は?」


神影がいることを忘れてたのか、独歩ははあ……と息を漏らす。
カバンを隅に置いてスーツのジャケットを脱ぎ、ネクタイを取りながら独歩は体調をうかがった。


「へいき」
「そ、そうか? そうにはみえないけど・・・・・・」


平気という割にはぼんやりとしているし、熱がまださがってないのか頬も赤い。
神影の隣に腰を下ろし、顔を覗き込んだ後、独歩は額に手を伸ばした。両手で頬を包み込んで、コツンと額をくっつける。目をつむる独歩の耳が赤く染まっていた。それからうーん、と唸って「高いな・・・・・・」とつぶやきを落とす。


「薬は飲んだのか?」
「うん」
「そうか。なら、横になって休んだほうがいい。ほら、ベッドに行こう?」
「ここでいい」
「え? いや、でも・・・・・・」


ベッドに連れて行こうとするが、神影に拒否される。


「ソファじゃ休まらないだろ」
「だいじょうぶ。二日間も借りられないし、眠くないから」


神影はだいじょうぶ、と繰り返す。
だが見るからに熱は高いし、体調も優れてはいない。このままにしておくこともできず、独歩は座ったまま神影と視線を合わせようと体をかがめた。


「神影、ちゃんとベッドで横になって休まないと治るものも治らないぞ。一二三がいいって言ったんだ、気にしないで甘えとけ。それに、俺と一二三は仕事時間が逆だから、ベッドを一つ借りても何も問題はないよ」


子供を論するように、一つ一つ丁寧に、優しい声色で伝える。
神影も独歩の目を見てしっかりと言葉に耳を傾けた。


「な?」
「・・・・・・わかった」
「よし。じゃあベッドに行こうな」


よしよし、と子供をほめるように頭を撫でる。そこではっ、となって「わ、悪い!」と両手を上げた。
そんなことをする独歩に目を丸くして微笑をこぼすと、独歩は恥ずかしそうに頬をかきながら誤魔化すように笑った。



+ + +



神影を一二三の部屋に送った後、独歩は風呂に入りテーブルに置いてあった夕食を温めた。眠い目をこすり時計を見て、もうこんな時間かと肩を落とす。

もう寝ようと自分の部屋に向かう途中で、一二三の部屋の前で止まった。部屋には神影がいる。さきほどの神影の様子から心配で様子を見てから寝ようと、独歩は音をたてないようにゆっくりと扉を開ける。

ベッドに横になっているものの眠っていなかった神影は、扉が開いたことに気づくと、頭だけを上げて扉のほうに目を向けた。
独歩と目が合い「あ」と独歩がこぼす。様子を見たらすぐに出ていこうと思っていたが目が合ってしまい、独歩は観念して背中越しに扉を閉めた。


「眠れないのか?」


ベッドの隅に腰を下ろして、横になる神影を見下ろす。

こくこくと頷く神影に「水でも飲むか?」と問えば、こくりと頭を動かした。独歩はキッチンに向かい、小さめの水筒に水と氷を入れ、神影のもとに向かう。起き上がって水筒を受け取り、水をのどに通すと、再びベッドに横になる。


「寝なくていいの?」
「うん? ああ、俺ももう寝るよ。明日も仕事だしな・・・・・・」
「気にしないで、寝ていいよ」
「・・・・・・ほんとか?」


気遣わなくていいという神影に、独歩は訝しげなまなざしを送った。
昨日今日で思ったが、神影は大丈夫ではないのに平気だという傾向があるように見えた。どうすべきかと微妙な表情を浮かべる独歩に、神影は何度も平気だと伝える。


「じゃあ、俺はもう行くけど・・・・・・いつでも起こしてくれていいからな」
「ん、わかった」


心配そうな視線を送り、何度も振り返って、独歩は部屋を出て行った。
しまった扉を確認して、神影はもぞもぞと布団の中に潜り込む。だるい身体で何度も寝返りをうち、小さく身体を丸めた。


「――――さむい」



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