独歩と一二三から、合わせたい人がいると言われた。大切な人だから、一緒に住むことを伝えたいのだとも言っていた。

今日はその人が家に訪ねてくるらしい。仕事帰りに独歩と合流してから向かうみたいだ。ついでにみんなで夕食を食べようと一二三が提案し、先ほどからいつもより気合をふるって料理に励んでいる。

それを横目にソファで座って待っていると、玄関の扉が開く音がした。話し声も聞こえる。それに気づいた一二三が料理から手を放して手を洗ってから玄関からリビングに続く扉を開いた。


「先生、どうぞ」
「お邪魔します」


独歩が玄関を開けて、寂雷に先を譲る。二人が家に入って独歩が玄関に鍵をかけたところで、扉から一二三が出てきた。


「いらっしゃい、せんせー!」
「こんばんわ、一二三くん。今日はお招きしてくれて嬉しいよ」
「いえ、そんな!」
「改まんないでくださいよー! 俺っちたちの仲じゃないですかー」


玄関で三人は立ち話を続ける。声の大きい一二三の言葉は聞き取れるが、二人の声は聞き取れない。神影はソファに座って目を向けたまま待っていると、振り返った一二三と目が合った。一二三はちょちょい、と手招きをする。

一二三に呼ばれ、神影はソファから一二三のもとへ行った。早く、と玄関に向かって一二三が声をかける。


「神影ちん、紹介すんね。この人が寂雷先生ー!」
「っ!」
「・・・・・・!」


リビングに現れたのは、よく知る男の人だった。長身で長い髪をなびかせる、優しい顔をした人。神影は寂雷を見て目を見張り、寂雷も同様に神影を見た瞬間身体を強張らした。


「神影、この方は神宮寺寂雷先生といって、お前の風邪薬を処方してくれた先生だ。他にも俺たちと・・・・・・先生?」


寂雷に続いて独歩がリビングに入る。独歩はそのまま神影に寂雷のことを紹介するため言葉をつづけたが、寂雷の様子がおかしいことに気づき、言葉を止めた。一方で、一二三も神影の様子に気づいていた。
二人は心配して名前を呼んでみる。その時、寂雷が足を踏み出した。


「神影くん!」
「お、っと!」


勢いよく寂雷は力いっぱいに神影を抱きしめた。突然抱きしめてきたことに驚きつつ、長身の寂雷に押し倒されないようになんとか体のバランスを保つ。寂雷の背後では一二三と独歩が思わぬ行動に声を上げていた。


「じゃ、寂雷・・・・・・?」
「無事でよかった・・・・・・」


とんとん、と寂雷の背中に手をまわして叩く。寂雷は耳元で安堵の息をこぼしながら安心したように、言葉を零す。「本当に、よかった・・・・・・」消え入りそうな声で繰り返し、まわされた腕に力が入ったのを見て、神影は「ごめんなさい・・・・・・」と小さく零す。


「え、えっと・・・・・・先生?」
「ああ、突然すまなかったね。神影くんも」


控えめに声をかけた独歩の声に、寂雷は我に返る。腕から神影を解放して、微笑みかける。神影は少しぎこちない様子を見せて、一二三は二人を交代に見た後「えっとー、神影ちんと寂雷先生って知り合いなんですか?」と聞く。


「うーん、そうだね。知り合いというより、保護者がわりをしていたかな」
「えっ!?」
「そ、そうなんですかっ!?」


おもわぬ事実に、二人は驚く。
「事情があって神影くんを昔引き取ったんだ。とはいっても、神影くんはすぐに姿を晦ましてしまったのだけど」寂雷は困ったように笑い、神影は申し訳なさそうに肩をくすめる。


「い、家出したのか?」
「家出、というか・・・・・・」
「どちらかというと出て行った、というほうが合っているかもね。その点については私が悪いんだ。本当に済まないことをしてしまったね、神影くん」
「いや、寂雷は悪くないよ。こっちこそ、勝手に出てって・・・・・・」
「うん、そうだね。せめて連絡手段は欲しかったかな」


無事だったことが分かっただけでもよかったよ、と寂雷は安心したと胸をなでおろす。申し訳なさそうに見つめてくる神影ににこりと笑いかけると、神影はそれにこたえるようにぎこちない笑みを見せた。


「んじゃあ、寂雷先生はずーっと神影ちんを探してたんすか?」
「そうだね。どれくらい経ったかな・・・・・・5年くらいもう経ったのかな」
「ご、5年!?」
「うっわー、長かったね〜神影ちん」


うっ・・・・・・、と短く零す。
身を小さくする神影の肩に手を置いた。


「またこうして会えることができて、よかったよ。まさか、二人のところに転がり込んでいたとは思わなかったけどね」


偶然は凄いね、と寂雷は何度目かの笑みを浮かべた。



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