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「あれ、ハーマイオニーは?」
クレアは大広間に向かう途中で、ハーマイオニーがいないことに気づいた。今日一日の授業はずっとネビルといたから、ハーマイオニーとは一緒に居なかったのだ。クレアは一緒に大広間へ向かっていたパーバティとラベンダーに訪ねる。
「ああ、ハーマイオニーはトイレで泣いてるのよ」
クレアは目を丸くして、どうしてだと尋ねた。
どうやらフリットウィックの授業が終わった後、ロンが『悪夢みたいなやつ』や『だから友達がいないんだ』と囁かれていたのを聞いてしまったらしい。ショックを受けたハーマイオニーはトイレで閉じこもって「一人にしてくれ」と言ったまま、ずっと閉じこもってしまった。
それを聞いたクレアは、ちょうど前を歩いていたハリーとロンを見つけ、駆け足で向かった。
「ひどいわ、ロン!」
「な、なんだよ急に」
突然クレアに怒鳴られ、ロンはびっくりとする。
「ハーマイオニーは私の友達よ! 酷いこと言わないで!」
それだけ言い放って、クレアは大広間とは逆方向に走っていった。ハーマイオニーが泣いていることを小耳にはさんでいたロンやハリーは、バツの悪い顔をして大広間へと向かう。
* * *
「ハーマイオニー、一緒に大広間へ行こう?」
ハーマイオニーは地下への階段のそばにあるトイレの個室に閉じこもっていた。コンコン、とノックをしてはハーマイオニーに呼びかける。扉の向こうでは鼻をすする音がした。
「ハーマイオニー、此処を開けて?」
「わたしのことはほっとてよ。一人で大広間へ行って」
「ほっとけないよ。私たち、友達でしょ」
涙声でハーマイオニーは強く言う。また鼻をすすっているみたいだ。
「ハーマイオニーは、私にとって初めてできた女の子の友達だよ」コンコン、とノックする。「ね、此処を開けて」しばらくすると、ガチャと個室のカギを開けて扉を開いた。目を赤くしたハーマイオニーを出迎えて、ニコリと笑いかける。
「ごめんなさい、クレア。晩餐、楽しみにしてたのに・・・・・・」
「ハーマイオニーのほうが大切だよ」
気にしないで、といつものように笑顔を向けるとハーマイオニーも笑ってくれた。一緒に戻ろう、と手を差し出してギュっと握る。ゆっくりと手を引いて足を踏み出そうとしたところで、異変気づいた。
「なに、このにおい・・・・・・」
ハーマイオニーのつぶやきに辺りを見渡し、ふと入り口に目をやったクレアはすくみあがった。四メートルはあろう、灰色の肌をした巨大な生き物が、棍棒を振り上げていた。
すぐさまハーマイオニーの腕を掴み、自分の方に引き寄せる。棍棒はハーマイオニーが立っていたところにめりこんだ。
「な、なにあれ!」
「トロールだわ! キャー!」
恐怖に立ちすくんでしまったハーマイオニーを、悠半ば引きずるようにして移動する。トロールは棍棒を床から取り上げてまた振りかぶった。その目には完璧にクレアとハーマイオニーがとらえられている。
手洗い場は粉々に破壊され、水が四方に吹き出している。木造の扉や石造りの壁もところどころ打ち壊され、辺りは凄惨だ。
ハーマイオニーをかばって逃げながら、ついに壁際に辿りつく。とうとう追い詰められてしまった。
「やーい、ウスノロ!こっちだ!」
入り口の方から声が聞こえ、トロールがそちらに振り返った。
ハリーとロンがいた。手当たり次第なにかをぶつけて口汚くトロールを罵っているが、ダメージは与えられていないらしかった。
「ハーマイオニー!」
自分たちから注意がそれたうちに、恐怖で固まったままのハーマイオニーを引っ張ってドアの方へ走り出した。すっかりへたり込んだハーマイオニー。今度はハリーたちに視線を向ける。
トロールのターゲットはロンに移っていた。ハリーが駆け出してトロールの首根っこに飛びついて、彼の杖をトロールの鼻に突き刺す。痛みからか、ハリーが首にぶら下がっている不快感からか、トロールが棍棒をブンブンと振り回した。ロンは咄嗟に杖を取り出す。
「ハリー!」
「ビューン、ヒョイよ!」
「ウィンガーディアム・レビオーサ!」
棍棒はトロールの手から飛び出し、高く上がって、トロールの頭上に落ちた。ふらふらして体を左右に大きく揺らしたトロールの肘から、悠莉は振り落とされて音を立てて床に転がる。
トロールは地響きをさせながらうつ伏せに倒れ、動かなくなった。