第四話


 真っ直ぐな男の子。それが松野千冬くんの印象だった。
 年下の彼に突然告白されたときは驚いて、思わず逃げてしまった。それを後悔しながら過ごしていれば、また数日後に彼が現れて、謝罪と二度目の告白をされた。その姿があまりにも真っ直ぐで、私は多分その時から少なからず彼に惹かれていたのだと思う。

 それから千冬くんとの交流が始まって、まずはメールでやり取りをしていた。人とメールでやり取りなんてあまりしなくて不安だったけど、千冬くんと話す内容は楽しくて、気付けばそんな不安は何処かへ消えていた。加えてメールのやり取りを楽しみにしている私もいつしかそこにいたのだ。

 それを何度か繰り返していたら、放課後に会えないか、という連絡を貰った。それを貰った瞬間、私は舞い上がって、もちろん、とすぐに返していた。メールの画面を見て、ふふっと笑っていた頃が今では懐かしい。

 ただ、女子高の前で千冬君が待っていたのには驚いた。なにも言わなかった私も悪いけど、まさか校門前まで来てくれるとは思わなかったのだ。それを言えば、千冬くんは悪くないのに眉根を下げて謝罪をする。それに慌てて首を振って、ありがとう、と言えばぱっと彼は嬉しそうに表情を明るくした。それが可愛くて、私は弟のように彼を思った。

 それ以来、千冬くんは学校から少し離れたところまで迎えに来てくれるようになって、放課後に遊びに行くことが増えた。多分私のために調べて来てくれたであろうおしゃれなカフェに行ったり、言ったことも無いゲーセンに行ったり、チェーン店のバーガー屋さんにも連れてってくれた。それが毎日楽しくて、千冬くんと出掛けるのが日々の楽しみになっていた。

 そんなふうに千冬くんと過ごす日が増えていくと、千冬くんの新しい一面も見えてくる。まだ中学生なのに千冬くんはとても男らしくて、でも可愛いところもあって、笑う顔なんてまさにそれだ。そして私のことを健気に思ってくれる姿が嬉しくて、距離が近づいたせいか、私は千冬くんを男としてではなく弟として見るようになっていた。そこに自覚は無かった。でも千冬くんはそれに気づいていたみたい。

 ある日、塾が遅くなって帰りが夜になった日、たまたま特攻服というものを着た千冬くんに会った。千冬くんは凄く慌てながら驚いていて、その様子にふふっと笑ってしまう。そうして千冬くんにも用事があるのに、送る、と言うのに、私は断った。だって用事がある上に、こんな夜遅くに年下の男の子に送られるのはなんだか申し訳ないし、普通なら年上の私が贈るべきだと思ったのだ。すると千冬君はムッと眉を顰めて、年齢なんて関係ない、と強く言って強引に送られることになった。

 やっぱり優しいな、と思った。そしてその真っ直ぐさに憧憬を覚える。

 二人で歩いていればあっという間に我が家について、いつも通り、またね、と言って別れようとする。でもその瞬間、千冬くんが大きな声を出して私を呼び留めた。


「オレ、春乃さんのことが好です!」


 三度目の告白に、私はドキリとした。そして真っ直ぐ見つめてくる眼差しに、まるで目が離せない。


「だから、年下扱いとかしないで、ちゃんと男として見てください。オレはアンタが好きな男の一人だって」


 その時、私ははっとした。

 そうだ。千冬くんは私のことを恋愛的に好きだと言ってくれた。それなのに、私は千冬くんといる居心地の良さに甘えて、弟みたいだな、なんて思ってそんな風に接してきた。それはあまりにも千冬くんに失礼なものだった。

 素直に謝罪をすれば、二人の間にぎこちない沈黙が流れる。それを打ち破るように、おやすみなさい、と言って、今度こそ千冬くんに見送られながら玄関の戸を閉めた。

 扉の向こうで千冬君が立ち去っていく影が見える。それを見終えたあと、私は扉に背中を預けて片手で顔を覆った。だってどうしようもなく顔が真っ赤に染まっているのを自覚できた。それに心臓が飛び出そうなほど、ドキドキ鼓動を打っている。そんな自分に、私は、ああそうか、と今まで気づかないふりをしていたことにようやく目を向ける。


 ――私、もう千冬くんに恋してたんだ。







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