第二話


 彼女と接点を持つことが出来たオレは浮かれていた。

 あの後、オレは彼女――春乃さん――のメールアドレスを交換することが出来た。告白のリベンジに重ね、連絡先も交換できたことに、その日は浮かれてベッドの上で悶えていたのを覚えている。

 最初に送ったのは短いなんでもないただの挨拶のメール。それに春乃さんはすぐに返してくれて、丁寧な改めての自己紹介を返してくれた。それから何度もメールを交わすようになって、いわゆるオレは春乃さんとメル友的な関係をまず築くことになった。

 そこで知ったのだが、彼女はどうやらオレと同じく動物が好きらしくて、なかでも猫が好きらしい。でも厳しい家では飼えないらしくて、彼女は残念がっていた。それでノラ猫と遊んでいたらしくて、春乃さんがよく遊んでいる白猫は仔猫の時から面倒を見ていてとても懐かれているという。そんな彼女に、自分はノラ猫を拾って飼っている、と言えば彼女は凄く羨ましがった。それでメールと一緒に写真を送って見れば、可愛いね、と言ってくれた。

 そうやって共通の話題を見つけて、オレたちの関係は始まりを考えると良い関係を築いていた。けど、これで満足してはいけない。このままじゃただのメル友だ。オレは彼女と付き合いたいのだ。だから勇気を出して、ある日メールをした。


『よかったら明日、放課後会えませんか?』


 暗にデートの誘いをして見た。それに気づいてくれるかどうかは分からないけれど、オレはドキドキしながら携帯を見つめて返信が来るのを待った。すると、ピロン、と音が鳴って、オレは急いで受信したメールを開く。


『もちろん。楽しみにしてるね』


 合意を得られた返信に、オレは部屋の中でガッツポーズをとる。そしてこれ以上ないまでに有頂天になって、その日はわくわくしすぎて眠るのに困った。でも寝不足のままいくなんてカッコ悪い。だから無理やりにでも眠ろうと、オレはギュっと目を瞑って布団に潜り込んだ。





   * * *





 放課後、オレは春乃さんが通う学校の校門前で彼女が出てくるのを待っていた。学校から女子生徒が何人も出て来て、そのたびオレのことをじろじろ見てはひそひそと囁き声を立てるが、そんなのは一切気にせず、ただただわくわくした気持ちで春乃さんが出てくるのを待っていた。

 しばらく経つとちょうど向こうから春乃さんが歩いてくるのが見えて、オレはぱあっと顔を明るくして大声で春乃さんを呼んだ。


「あっ、春乃さん!」


 その声にびっくりして顔を上げた彼女は、オレのことを見るとを目を見開いた。そのまま大きく手を振ると、春乃さんはきょろきょろと自分たちを見つめる生徒たちを見て、急いでオレのところまで駆け寄って来てくれる。


「ち、千冬くん!?」
「学校お疲れ様です!」
「い、いつから待ってたの?」


 周りの視線を気にしながら春乃さんはそう聞いてくる。それに首を傾げながら「少し前です」と言うと、建前と理解したのか困ったように眉根を下げた。


「と、取り敢えず、こっちに来て!」


 そう言って春乃さんは急いで学校から立ち去ろうと早歩きをする。オレもその後を追って、周りから受ける視線を感じながらとことこと目的もなく学校を離れた。

 少し歩いて学校から遠ざかると、春乃さんはきょろきょろと辺りを見渡して生徒がいないか確認する。オレは気にしないが、あまりにも春乃さんが気にしている様子を見せるから、なんだか申し訳なくなって眉根が自然と下がった。


「あの……すんません、迷惑でしたか……?」


 窺うように彼女を見つめると、ぱっとこちらを向いた春乃さんが慌てて首を横に振る。


「ううん! 迎えに来てくれてありがとう」


 そう言って、彼女はにこりをと微笑む。それにオレはドキッと心臓が高鳴って、自然と頬を染めた。


「でもウチは女子高だからね、男の子が学校の近くで待ってるとやっぱり目立っちゃって……」
「あ……そうっすよね。次からは気を付けます」
「うん、ありがとう」


 確かに、あまり考えてなかったが、女子高の前に男士が居たらそれは目立つな、と思った。これは軽率だったな、と改めて反省する。でも春乃さんはもう気にしていないようで、切り替えるように、ごほん、と言ってまた笑いかけてくる。


「それじゃあ、遊びに行きましょ!」






 春乃さんとの放課後デートは最高なものだった。放課後だからあまり時間はないけど、十分満たされる時間だった。

 まずは小腹を満たそうと背伸びをしてお洒落なカフェに入ろうとしたが、彼女がチェーン店のバーガー店をじっと見ていたからそっちに入ることにした。そこで知ったが、春乃さんはこういった店に入ることが無かったらしくて、今回オレと一緒に入ったのが初めてだったらしい。それを聞いたらなんだか嬉しくなって、おすすめのメニューを教えたら喜んでくれた。

 そのあとはゲーセンに入ったりした。やっぱり春乃さんは来たことが無かったらしくて、きょろきょろと物珍しそうに辺りを見渡す姿は年上なのに子供みたいで可愛かった。それに思わず笑うと、彼女は恥ずかしそうにムッと唇を尖らせて、でも最後にはくすりと笑った。

 ゲーセンではカッコいいところを見せようとしてクレーンゲームに挑んで小さめのぬいぐるみストラップを取って見た。ちょうど二つ取れて、二人でお揃い、という下心を籠めて、初めて来た記念に、と渡せば、春乃さんは嬉しそうに「ありがとう、千冬くん」と笑ってくれた。それが嬉しくて、オレは心の中でガッツポーズをとる。

 そんなことをしていたらあっという間に日が暮れて来て、厳しい家の春乃さんの門限に間に合うように帰路についた。家まで送ります、と言うオレに春乃さんは遠慮をしたけれど、男として女をひとりで帰らせるわけにもいかない。だから引かずに送ると言えば、彼女は最後には諦めて「それじゃあ、よろしくね」と言ってくれた。

 道は途中まで同じだから、行き先は分かる。そろそろいつも彼女をみかけるところ道に差し掛かると、ふと足元から、にゃん、と小さな声が聞こえてきて、二人で足を止めて地面を見下ろした。


「あ、猫」


 人懐っこいノラ猫はオレたちの方に寄ってくると、春乃さんの足に擦り寄って来た。それに彼女がしゃがみ込んで撫でてやると、猫は嬉しそうに頭を押し付けてくる。


「春乃さん、猫好きっすもんね」
「うん、いつか飼ってみたいなあ」


 隣にしゃがみ込んで猫を眺めながらちらりと春乃さんを盗み見ると、春乃さんは頬を緩ませて猫を見つめていた。その表情に見惚れながら、本当に猫が好きなんだなあ、と思い知る。

 猫は撫でられると満足したのか、すぐに何処かへ行ってしまった。それに春乃さんは少し残念そうにしながら見送りしゃがみ込んでいた腰を上げる。そこでふと、通学路でよく見かけた春乃さんのことを思い出した。


「そういえば、通学路でよく白猫と遊んでますよね」
「うん。まだ小さかった時にお世話してたら懐いてくれたんだ」


 話を聞くと、まだ仔猫だったその猫に餌をあげたりしていたら懐かれたらしく、あそこの道を通るといつも寄って来てくれるようになったという。本当は連れ帰って飼いたかったと言うが、以前に聞いていた通り親が厳しい人らしくて動物は飼えないらしい。でも、いつか自立したら猫を飼うんだ、と春乃さんは笑った。

 その後は二人で猫の話をして帰った。ウチで買ってるペケJの話をしたら彼女は喜んでくれて、いろんなエピソードを話した。そのたび彼女は楽しそうに笑って頷いてくれて、オレも話していてうれしくなる。

 そんなことをしていたらあっという間に彼女の家に辿り着いたらしくて、春乃さんが「あ、ここだよ」と立ち止まった。見上げると一軒家は周りの家に比べれば大きくて、豪邸とまでは行かないが、やはりお嬢様学校に通ってる人なんだなあ、と実感する。


「今日はありがとう。一緒に遊んでもらったうえに送ってまでくれて」
「いえ! オレもすげー楽しかったです!」


 すると、春乃さんも「私も楽しかった」と言ってくれて、オレも益々嬉しくなる。


「それじゃあ、千冬くんも気を付けて帰ってね」
「はい! それじゃあまた、春乃さん」
「うん、またね、千冬くん」


 そう言って最後まで笑いかけてくれる春乃さんが家に入るまで見送る。そして完全にドアが閉まった後、オレは嬉しさのあまり小さく、っしゃあ、とガッツポーズをした。







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