硝子の箱庭



 今日は、オズの誕生日だ。
 魔法使いや魔女は長寿だ。だから誕生日に特別な思い入れをあまり持たない。それが今から数千年以上も前だと、もっとその意識が希薄だ。だからオズもドロシーも自分の誕生日というものに特別な思い入れはなく、そもそも覚えてすらいない。
 しかし魔法舎で暮らすようになってから、賢者がその日を大切にしてくれた。それ以来、魔法舎では一人ひとり年に一度の誕生日を盛大に祝うことになった。そして今日が、オズの誕生日だ。
「オズ」
 アーサーを中心に誕生日を祝われているオズがちょうど一人になった頃、ドロシーは見計らったように声を掛けた。
 振り返ったオズは赤い瞳をそっと細めて、ドロシー、と大切そうに名前を呼ぶ。その声音にドロシーはくすぐったく思いながら、背中に隠したプレゼントをきゅっと握った。
「あの……今日は貴方の誕生日、でしょう?」
 分かり切っていることを言って、言葉を先延ばしにする。なんだか改めてこんなことをするのは、気恥ずかしかったのだ。
「だから……」
 じっとこちらを見つめ、ドロシーの声に耳を傾けるオズ。それを一瞥して、ドロシーはそっと背中に隠したプレゼントを出して、オズに差し出した。
「これ……大したものでは、ないのだけど」
 気恥ずかしそうに視線を逸らして、顔を俯かせながら渡すドロシーに、オズは差し出されたそれを受け取った。そうしてじっくり見下ろして、大切に手の中に収めた。
「これは……スノードームか」
「ええ」
 丸い形をしたスノードーム。ガラスの中には雪原に白い花が咲いていて、ドロシーの魔法で美しい雪がガラスの中で降っていた。まるで、あの頃に見た光景をそのまま映したかのような箱庭だ。
「待雪草か」
「私たちには、それが合っていると思って」
 咲いている花は、ドロシーが好きな花で、そして二人にとっても大切な、冬の終わりに咲く花。それが二輪寄り添うように咲いていた。
「二輪、咲いている」
「ええ」
「これは、私とお前か?」
 真っ赤なオズの眼差しが、ドロシーに向けられる。
 オズの言葉に、ドロシーは目を丸くする。そうして瞬きをしたあと、くすりと優しく口元を緩めて、そっと目を細めて微笑みながら頷いた。
「……ええ」
「……そうか」
 それにオズも頷く。スノードームに再び下ろされた眼差しは愛しむように優しげなもので、そっと目元をやわらげていた。
「大切にする、ドロシー」
「ええ。おめでとう、オズ」
 笑ったドロシーの表情に、オズもまた微笑む。
 すると、今日の主役であるオズを呼ぶ声が聞こえてきた。それに二人は振り返り、賢者や中央の魔法使いたちの姿を見ると、ドロシーはその場を離れようとした。それをオズは引き留めるように名前を呼ぶ。
「ドロシー」
 振り返ったドロシーに、オズは美しいスノードームを交代に見つめながら続けた。
「今夜、これを眺めながら晩酌をお前としたい」
 その言葉に、ドロシーは目を見開く。それは、今日という日の終わりを二人で過ごすということだ。そう言外に想いを籠めたオズの言葉を読み取って、ドロシーは笑顔を浮かべる。
「もちろんよ、オズ」
 その笑顔に、オズは愛しそうにそっと目を細めた。






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