――仮に、この世界または並行世界を『世界線IXWorld Line IX』と呼称しよう。



「こうして会うのは、いつ以来でしょうね」


愛らしくも透き通った声で、最愛の少女が嬉しそうに微笑み再会を喜んでいた。

彼女の名はネフェルタリ。穏やかで愛らしく、心優しい女性。 また、余と共に戦場に立つ勇気も持ち合わせていた。
唯一敬愛した、最愛の妃。


「こうしてまた笑いあえることが、僕は何よりも嬉しいよ」


ネフェルタリの言葉に頷き、白い肌を持つ少年も心から再会を喜んだ。

彼の名はモーセ。子供の頃に親に捨てられ、母に拾われ育てられた。 聖人とし、自分の事よりも周囲の幸福を願う、優しい心を持っていた。
最愛の友人。自分と並び立つに相応しい才能と人格を有した無二の兄弟。

――愛していた。
――誰よりも、余は、この二人を心から愛していた。


「ラーメス」


最愛の妻が、余の名を呼ぶ。
最愛の友が、余の名を呼ぶ。

奏でる音は美しく。あの日々は何よりも輝いていた、幸せだった時代。

もし、友の肌が透き通った白い色をしていなければ、この何ものにも代え難い日々は続いていたのかもしれない。
もし、最愛の妻が早くも命を落とさず最後まで寄り添っていてくれれば、心の空洞を埋めてくれていたかもしれない。

しかし、それはもう過去の事。過ぎ去ってしまった時代。
悔いがあるわけではない。あの日々は、いつまでも輝き続ける幸福な時間だ。後悔や悔いを抱くなど、最愛たる二人への侮辱だ。


「――おい、何故そんなに離れて歩いている、■■■■」


振り返り、ネフェルタリとモーセのさらに後ろで歩いてついて来る、その者の名を呼んだ。後ろから見守るように、遠くからついて歩くその者は、名を呼ばれて驚いた表情を見せた。


「こちらへ来い。それではそなたと話せぬではないか」


手を差し出し、こちらへ来るように促す。その者は戸惑いを見せ、視線を泳がせた。どうするべきか分からず、手先を持て余す姿は内気で、愛らしい。


「そうですよ、■■■■。こちらへ来て一緒にお話しましょう」

「おいでよ、■■■■。君の話も聞きたいんだ」


花が咲くような笑顔を浮かべて、ネフェルタリとモーセもその者に手を差し出した。
それを見て、まるで幼子のように目を丸くする。


「■■■■――――」


もう一度、その名を呼ぶ。

何度も、その名を口にしていた。
いつも、そばで見守っていた。
誰よりも近くで、余を見つめていた。
最後の最期まで、この鼓動が途切れたその瞬間まで、そばに寄り添ってくれていた。

心から、その者を愛していたのだ――。


「ラーメス――――」


少女のごとく、彼女は笑った。

Epilogue -IX-

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