――仮に、この世界または並行世界を『世界線IXWorld Line IX』と呼称しよう。


とある世界。
とある日。
とある時刻。

定まった世界。
始まる日。
決められた時刻。

銀色の髪をした、角度によって色を変える不思議な瞳を持つ女は、そこにいた。
屋敷というには小さすぎる。館というには小規模すぎる。しかし、一軒家というには大きすぎる。
そんな誰もいない、静寂に包まれた場所に女はいた。

とある一室。
女は小さく鼻歌を歌いながら、床に何かを書いていた。空気に反響する声。
女が書いていたのは、魔法陣。
描いたそれはインクでもなく、赤く染まった血でもなく、水銀で描かれていた。


――聖杯戦争。

幾多の伝承において語られる、あらゆる願望を実現させるという『聖杯』の再現。
しかし、その聖杯が叶えるのはただ一人の人間の祈りのみである。

聖杯に選ばれた7人の魔術師に、聖杯が選んだ7騎のサーヴァントが与えられる。

一騎、騎士『セイバー』。
一騎、弓兵『アーチャー』。
一騎、槍兵『ランサー』。
一騎、騎兵『ライダー』。
一騎、魔術師『キャスター』。
一騎、暗殺者『アサシン』。
一騎、狂戦士『バーサーカー』。

マスターとなった魔術師は、この7つのクラスを被ったサーヴァント一人と契約し、自らが聖杯に相応しい事を証明しなければならない。つまり、マスターとなった者は、他のマスターを殺して自身こそ最強だと示さなければならないのだ。
聖杯を求める行いは、その全てが『聖杯戦争』と呼ばれている。

約200年前。
全ての魔術師の悲願たる、この世の全てを記録し、この世の全てを創造できるという神の座『根源の渦』へと到る試みを、実行に移した魔術師達がいた。
 
一家、アインツベルン。
一家、マキリ。
一家、遠坂。

彼らは『始まりの御三家』と呼ばれた。
以来、60年に一度の周期で、聖杯はかつて召喚された極東の地『冬木』に再来する。


以上が、この世界での聖杯戦争についてだ。
既に聖杯はマスターを選び抜いた。

一人、衛宮切嗣。
一人、遠坂時臣。
一人、言峰綺礼。
一人、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。
一人、間桐雁夜。
一人、ウェイバー・ベルベット。
一人、雨生龍之介。

今朝がたに揃った七人のマスター。
これを合図に、いよいよ聖杯戦争がはじまろとしていた。

そして、事は起こった。
早すぎるぐらいに、早々とアーチャーがアサシンを討ち取った。瞬殺だ。
まあ、騙されるか騙されないかは、マスター次第だが……。


「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」


片手を魔法陣に伸ばし、詠唱を行う。
淡く魔法陣が赤く輝きだす。

聖遺物は無い。しかし聖遺物は此処に在り。
この身こそ聖遺物。あらゆる過去、未来、現在に存在し存在しえない者。


「閉じよみたせ。閉じよみたせ。閉じよみたせ。閉じよみたせ。閉じよみたせ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」


淡い光はやがて強くなり、魔力が満たされていく。
それにより生じた風が女の銀髪を靡かせる。


「――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」


前へと差し伸べた片手に片方の手を添え、吹きあがる力に圧倒されぬよう、足を踏ん張る。


「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――!」


片手の甲に、三つの三角形が合わさった紋様が浮かび上がった。
見たこともない――令呪だった。

呪文を唱え終えると一際輝かしい光が放たれた。神々しく。光輝の光。
あまりの眩しさに耐えかね、女は両目を瞑った。
生じた風や煙は辺りを包んだ。暴風。
あまりの強さに、女は足を崩し床に座り込んだ。

やがて輝きは一点に集約し、煙で隠していた姿を現す。

褐色の肌と太陽の色をした眼を持つ、長身の男。片手に杖を携え、青と金の鎧と白いマントを装飾と共に身に着けている。
異様な圧倒。上に立つ者。そんなものを目の前の男は纏っていた。
何処かでこの身で感じた空気と、雰囲気と同じだ。

男を見上げた。圧倒されるがままに。
男は両手を広げ、高らかに言う。


「我が名はオジマンディアス。王の中の王。全能の神よ、我が業を見よ――――そして絶望せよ!」


クラスはライダー。
この男が、この世界でのサーヴァントだった――――

Prologue -IX-

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