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04 / 19
HQ夢
 図書館にいる先輩に一目惚れしたアカアシの話


学校に設立されている大きな図書館、その一階の右側一番奥に設置されているテーブルの右から2番目の日当たりがいい場所。そこに決まって座って静かに本を捲る1人の女子生徒に目を奪われた。その漠然とした感覚はスター選手を見た時の感覚と似ていたのをよく覚えている。伏せた眼差しや横顔、細い指でページを捲る仕草、その一つ一つに目が離せなくて、その眼差しに見つめられたいと思ってしまった。それが毎日図書館へ通うようになったきっかけだった。
彼女は朝のHR前、昼休み、放課後の時間に図書館に来て静かに読書をしていた。学年はおそらく上。名前はわからない。部活は多分帰宅部。ただ遠くから彼女を見つけるだけ、だから彼女のことはなにも知らなかった。最初は見つめているだけで満足で時々その視界に映りたいと思うだけですんだ、見つめるだけに片想いだった。でも何度も図書館に通って彼女を眺めるたびその欲はどんどん膨れ上がって見つめられたい、話したい、触れたい...と惜しみなく溢れてくる。恋とは厄介なものだと思った。でもその感情に突き動かされる気分は、案外よかった。

「あ、あの...っ」
声に驚いて彼女がゆっくりとこちらに振り向いた。声が少し上擦って響いてしまったのが少し恥ずかしくてあっ...と口を噤む。恥ずかしい...みっともない...と悔やむものの声をかけてしまった以上取り下げられずそのまま改めて声を掛けた。
「あの...よかったら連絡先を教えてくださいませんか」
潜めた声で言うと彼女は驚いたように目を丸く見張った。こちらを伺うようにじっと見つめてきて、耳が熱くなる感覚がする。
「あ、えっと、怪しい者ではなくて...」
いや知らない男に突然連絡先聞かれるなんて充分怪しいだろ。と口から出た自分の言葉に突っ込む。「そうじゃなくて...」と訝しむ彼女になんとか言葉を探してぐっと拳を握る。
「貴女に一目惚れしました...!」
はっと彼女が大きく目を見開く。
「だから、もしよければ...連絡先を教えてくださいませんか」
なり行きで言ってしまった。引かれただろうが。いやでも他に言いようもなかったし...とぐるぐる考えているとふと小さく笑う声が聞こえて顔を上げた。
「うん、いいよ」
「...え」
「スマホ、今持ってる?」
「あ、は、はい!」
急いでポケットからスマホを出して彼女と連絡先を交換した。緊張して手が震えそうだった...いや震えていたかもしれない。夢みたいだ。
「君、名前は?」
「アカアシケイジです、2年です」
「アカアシくんね。私は3年のミョウジナマエ」
「ミョウジナマエ、さん...」
初めて聞く声と知った名前、向けられる眼差しに、身体の内側からなにかが込み上げてくる。嬉しくてたまらない。
「連絡、楽しみにしてるね」
「! は、はい!」
そうしてそっと微笑んだ彼女に、心臓がドクンと大きく高鳴った。やばい...遠くから見つめていた時より、この人が好きだと溢れて止まらない。

見つめるだけの片思いから一歩踏み出すアカアシ



04 / 15
HQ夢
 アカアシの幼馴染に一目惚れしたボクトの話


「ケイジー」「あ。すみません、ちょっと抜けます」「なんだアカアシ彼女か?!」「なに?!」「いえ、今年入ってきた幼馴染です」そう言って手を止めてぱたぱたと新1年生の幼馴染のところに行くアカアシを3年生たちは「女子の幼馴染とか羨ましい!「しかも年下な」「な!」などと2人を眺めながらこそこそ言い合い「なあボクト、お前も...」お前もそう思うだろとコノハが隣にいるボクトに話を振ろうとした瞬間コノハを含め周りにいた人間はギョッとボクトを見やった。なんか...いつもと違う。しょぼくれてるわけじゃないけどテンション低いしなんかそわそわしてるし視線も二人の方をチラチラ見てる。その様子に一寸の不安を感じながら見守っているとアカアシと幼馴染がボクトの視線に気づいたらしく「ああ、あれがボクトさんだよ」「ああ!」よくアカアシから話を聞いていた幼馴染はぱっと頷いて「初めまして、アカアシの幼馴染のナマエです」と頭を下げる。「お、おおおう...」「...なんか変じゃないですかボクトさん、どうしたんです?」いち早くボクトの異変に気づいたアカアシは不思議そうにボクトを見やる。それをこの場にいた全員が見守り中ボクトはきゅっと顔を顰めながらぼそぼそと「俺...アカアシの幼馴染のこと好きになっちゃったかもしんない...」「「「...はあッ?!」」」
ボクトの言葉に多分その場にいた全員が避けんだ。「は、おま、どーしたんだよ?!」動揺したコノハがボクトにそう言うと「だ、だって...なんかすげードキドキするし、見てると心臓がキュッとするし、好きだなあって想っちゃったんだもん...」「「(だもんじゃねぇ...!)」」やばい、これはどうしたものか...とボクトの習性を知っているチームメイトたちは心を一つにする。すると突然今まで黙っていた幼馴染はふっと吹き出したように笑い出してボクトを含め視線は幼馴染に向く。「ふふ、変なひと」ボクトの突然の公開告白が面白かったのか可笑しそうに笑う幼馴染をボクトはぽうっと見つめる。「か、かわいい...」「「「(あ、マジだわ)」」」どうやらこの末っ子エースの心は射止められたらしい、とチームメイトはスン...と諦めた顔をした。それからボクトはナマエのことを“好きかも“から”好き“に自覚したのか所構わず猛アタックをしている。
「あ、おはよーナマエ!」「なな!今日の俺すげースパイクよくってさー!」「ナマエー!一緒の昼飯食おーぜ!」「な、ナマエの席って窓側だろ?俺次の体育外だから見ててよ!」「ね、今日よかったら部活見に来ない?なんならマネとかやらない?!」「な、今の俺かっこよかった?!」
などなどとナマエの姿を見つければ一目散に笑顔を向けて話しかけ休み時間も教室に通うしよく部活見学にも誘ってる。加えて
「あ!今の可愛い!」「なにそれ可愛い!好き!」「大好き!!」
などと恥ずかしげも無く好意を口にするから周囲にもボクトのベタ惚れは周知の事実だったし本人も気づかないほど鈍感でもなかった。

「アカアシ、あれいいのか?」「なんですか?...ああ、ナマエのことですか?」今日も相変わらず猛アタックしているボクトとそれを笑顔で受け止めるナマエを眺めながらコノハとアカアシは話している。「別にいいんじゃないですか、本人も嫌がってないですし」「へえ、もっと幼馴染に対して過保護かと思ったわ」「まあ場合によっては口挟みますけど、ボクトさんは面倒だしよく分からないけど良い人ではあるので」「(面倒とは思ってるんだ)」はは、とコノハは苦笑する。「でもさーあれ、脈無しってやつじゃね?」いつものようにあしらうナマエを見ながらコノハは言う。しばらく見てきたがナマエはボクトから好意は信じていても懐かれてるって思ってる感じだ。とても意識してるようには見えない。それにアカアシはふっと「さあ。どうでしょうね」と小さく微笑んだ。最初は勘違いに近い好意と思っていた好意も日を増せば嘘ではない本当のものだと理解できる。裏表がなく素直で実直なボクトを知れば知るほどその言葉も笑顔も信じれて、この人は本当に私のことが好きなんだ、って実感できた。あの眩しいくらいの笑顔で好きなんて屈託も無く言われれば心が傾かない訳がない。そんなこととっくに自覚していた。
「好きならそう言えばいいのに」「ケイジ...」「はいはい」珍しくボクトがいない昼休み。昼食を終えて机に突っ伏してる幼馴染にアカアシは続ける。「なにが引っ掛かってるの?」「...言われてない」「なにを?」「好きってだけで、他はなにもないの」ボクトは惜しみなく好意を伝えてくるけどそれだけだ。普通なら付き合ってとか恋人になってとかどうなりたいのかを伝えてくると思う。でもそれがない。ボクトは多分、私のことは好きだけど付き合い訳ではないのだ。バレー一筋でそれに真っ直ぐな人だから好きな人ができても恋人は作らなそう。そして今それが証明されているようなものだ。それを話すと「確かにでボクトさんなら言いそうだけど」とアカアシも納得する。私より長く居るアカアシが言うなら確信だろう。「ならさナマエから聞いたらどう?」「え?」「ボクトさんに察する能力はないからね。ちゃんと言わないと分からない人だよ」そうかもしれないけど自分から言うのは...と渋る。それに「私なんか、烏滸がましい...」あんなにも眩しくて太陽みたいな人、私には勿体なくて烏滸がましい。いっそのこと「灰になりたい...」あの眩しい光に灼かれてしまいたい。

「あ!ナマエー!」今日も今日とて太陽みたいに眩しい笑顔を向けられる。その屈託のない笑顔に世界が朝を見つけるような感覚。好きと言うにはあまりにも身分不相応で隣に立つには烏滸がましくて「俺お前のそう言うところ大好き!」好きになったらその言葉がひどく辛い。「どーした?なんか最近元気なくない?」眉を下げて顔を覗き込んでくるその顔にぐっと口を噤む。「どーした?なんかあったか?」「...ボクトさん、私のこと好きですか?」「ん?うん!ちょー好き!」「好き、だけですか?」ボクトは意図が分からず首を傾げる。「だ、大好きだぞ?!」「そうじゃなくて」「うぇ?!」ちょっとだけツンツンした髪がしょげた気がする。「そうじゃなくて...どうなりたいとか...」「どお...?」「だから、付き合いたいとか...」するとようやく理解したのかハッとして「え!俺のこと好き?!じゃあ付き合って!!」そのあっけらかんに思わず悩んでいた自分がちょっと馬鹿らしく思えてくる。「...ボクトさん付き合うって思考あったんですね」「酷くない?!」「てっきり恋人は作らないとばかり...」「ああ、俺もそう思ってた」思わずは?と口をこぼしてしまった。でもボクトは「俺バレー一筋だし恋人優先にしてやれねーからさ」そう続けたボクトの眼差しはまっすぐだった。「でもナマエのことは俺の!って独り占めしたかったし、ナマエは俺のバレー大切にしてくれるから!だから俺そんなナマエのこと大切にしたい!もちろんバレー優先にはなっちゃうけど...」最後は少し不安そうに小さく言うボクト。そんな言葉をくれたボクトに思わず両手で顔を覆ってそのまま蹲った。「うお?!どーした?!腹痛い?!」ああ、なんだろう。今すごく幸せすぎて「灰になりたい...」「え!?死ぬの?!やだやだ死なないで!!アカーシーッ!!」いっそ、太陽に灼かれてしまいたい。


両片想いの2人の話



04 / 11
HQ夢
 アルゼンチンに行くのに彼女を諦めようとしたオイカワの話


「俺のこと一生忘れないで」
高3の引退後バレーを続けるのに海外へ行くことを決めたオイカワは付き合っていた彼女を振った。着いてきてと言う勇気も待っててと言う勇気も彼女の今後の人生を縛る勇気もなく諦めようとしても最後は欲が出て「忘れないで」なんて言ってしまった。本当は離れたくないし離したくない。でも国を超えての距離はあまりに遠くオイカワは本音を押し殺してたった一言溢れた欲で留めた。そんなオイカワの言葉に彼女は一瞬目を丸くするも次の瞬間には仕方なさそうにため息をつく。「全くさあ...そこは“待ってて”とか“迎えに行く”とか言うところじゃないの?」じとりと視線を向けてくる彼女の言葉にオイカワは呆気に取られる。「私のこと大好きで独占欲も嫉妬心も強い癖によく言うよね。一生忘れないでって言うくらいなら数年後でも十年後でもいいから迎えに行くって言う気概見せなさいよ」そう言って腕を組んで不満そうにする彼女に呆気に取られたオイカワは震える唇をおもむろに動かした。「...待ってて、くれるの?俺のこと、信じてくれるの...?」声は震えていてきゅっと眉を染める顔は泣きそうでそんなオイカワに彼女はフッと笑って「一生忘れられないから迎えにきてよ」その瞬間込み上げてくる涙を隠すようにオイカワは堪らず力一杯彼女を抱きしめて肩口に頭を埋める。「絶対、絶対迎えに行くからっ」「うん」「ずっとお前のこと好きだからっ」「うん、知ってる」「だからっ...待ってて。絶対お前のこと迎えに行くから...っ!」「...うん。ずっと待ってる」ぐす、と鼻を啜る音に彼女は仕方ないなあと笑って大きな体を抱きしめ返しながら頭を撫でる。「大好きだよ」「っ俺も、ずっと大好き。お前しかいないっ」

この後海外に飛び立って連絡し合う頻度も普通の恋人より少なくてもお互い信じて待って数年後指輪と花束持って迎えにくる。



04 / 05
HQ夢
 クラスの小さい子に一目惚れしたツキシマの話


クラスで見かけた時その笑った顔に、あ、と思った。いいな、と思った自分の感情に気づくとすぐに視線逸らして馬鹿馬鹿しいとヘッドフォンをする。そうして窓の向こうを見てみるけど窓に反射した姿を見つめてしまって思わず目を閉じた。恋愛なんてしないと思っていたし一目惚れなんて最もだと思っていた節がある。でもクラスにいるその子を何かと目で追ってしまう自分がいて認めざるを得なくなり内心舌打ちをする。話しかけるなんてしない。共通の話題も無いし話しかける接点がないからだ。だからいつもこっそり見つめていたある日席替えで後ろの席がその子になった。でも席が近くなったからって話しかける理由にはならない。あと後ろの席っていうのが嫌だ。僕の視界に彼女は映らないのに彼女は常に僕を視界に移す。居心地が悪い。それに内心ため息をついた時つんつんっと背中を突かれてこっそり背後を振り返った。「ごめん、黒板見えなくて...嫌じゃなかったら席交換してくれないかな」彼女はクラスの中で一番小さい子で無論男子の中でも大きい僕が前の席じゃ黒板なんて見えやしない。「あ、嫌なら別に...」「いいけど」「え」目を逸らしながら言ったら一瞬驚いた後あの笑顔を見せて「ありがとう!」って笑った。それにまた、あ、ってなった。席を立って机を移動させようとするとじっと彼女が見上げてくる。見られるのは居心地が悪い。「なに」「ううん、やっぱり大きいなあって思って。いつも背高いなあって思ってたんだあ」いつもと言う言葉に目を丸くした。胸の内側がギュッとした感覚がして誤魔化すようにフッと笑う。「君は小さいからねぇ。小学生の間違いじゃない?」「む、そこまで小さくないよ!」そう言って頬を膨らませる顔が案外良くて知らぬ間にそっと口角を上げていた。
それからは彼女から声をかけてくるようになった。「おはよう、部活お疲れ様」「ねね、さっきの問題のココわかる?」「あ、おやつにこれ買ったんだけどツキシマくんもどお?」「それじゃあまた明日ね、部活頑張って」たくさん話しかけて笑いかけてくる彼女との時間が1日の楽しみになった。僕も声をかけるようになったし揶揄うのが楽しかった。時々やり過ぎて怒らせることもあったけど「ねえ...悪かったて...」「...もう、いいよ、許してあげる」ってちょっと唇を尖らせながら言うのが好きだった。
そうやって仲の良いクラスメイトの関係を続けて来たある日彼女の告白現場を見た。相手は確か他のクラスにやつ。それを見た時とてつもない怒りと独占欲が渦巻いた。僕が一番彼女と近いと言う自覚がある。だから余計に腹がたった。それに絶対僕の方が先に彼女を好きになった。だから腹が立つ。「ねえ、付き合うの?」「え?」昼休み彼女に聞くと吃驚とした目で僕を見てくる。「さっき告白されてたじゃん」「見てたの...」恥ずかしそうにする彼女に少し苛立つ。「付き合わないよ。断ったもん」「ふうん」「自分から聞いた癖に...」そう言って彼女はムッとする。「...好きな人居るの」「な、なんで?」「へえ」「なんで納得するの!」反応をきただけで居るって分かった。相変わらず分かりやすい反応。でも今は余計にそれが腹が立つ。だから気づいた時には口に出ていた。「嫌なんだけど」「え?」「君が誰かと付き合うとか嫌なんだけど」ああ腹が立つ。だってずっと僕と一緒に居た癖に。それなのに。「君、ずっと僕と一緒にいたじゃん」なら僕でいいじゃん。でもその言葉は出なくて代わりに下手くそな素直じゃない言葉が出てくる。「君と付き合っていけるのなんて僕しかいないんじゃない」しんと静まる空気に少し居た堪れなくなる。でも口から出た言葉は訂正できない。ああ本当に腹が立つ。「...それは...嫉妬、ですか?」「...っはあ?」呑気な言葉に振り返った時言葉を無くした。だってそこには顔を真っ赤にしてこちらを伺う彼女が居たから。その表情が答えだった。「ツキシマくんが、私と付き合ってくれる...ってこと、ですか...」「...さっきからそう言ってんじゃん」多分僕も彼女と同じ顔をしてるんだと思う。そう思うくらい顔が熱かった。「私、ツキシマくんが好きだったんだよ」彼女は照れながらふふっと笑った。その顔にそっと目を逸らしながら小さくこぼした。「...知ってる」その顔を見たら、すぐに分かるよ。



04 / 02
HQ夢
 クラスメイトに一目惚れしたキタの話


あ、この子のこと好きになるわ。って高校の入学式で見かけた時にふと思った。そしたら同じクラスで隣の席で思わずじっとその子を見つめてしまう。すると視線に気付いてた彼女が「なん?そんな見られたら照れてまうわ」とふにゃりと笑いながらこちら向いた。その表情が可愛くて好きだと思ったら「すまん。かわええなぁ思うとった」と口に出た。吃驚した彼女はまた柔らかく笑う。「お世辞でも嬉しいわぁ」「いや、本音や」「なんや、面白い人やなあ」くすくすと笑う彼女に、ああ好きや、ってその日恋を自覚した。以降は仲の良いクラスメイトとして過ごしながらお互い部活動に精を出して行った。仲に良さは3年間常に一緒にいる感じで周りからは付き合ってると噂されることがあったが実際そんな事はなく友達以上恋人未満な関係だった。その間もキタは初対面の時のように「かわええな」「そういうとこ好きや」とか伝えていたが冗談だと思っている彼女は笑って「あんがとなぁ」「キタは面白い人やね」って流していた。それを「いや、本音や」って訂正する事はあっても強く伝える事はしなかった。それはお互い部活に打ち込んでいてたとえ恋人になっても恋人優先に時間は取れない。加えて3年で引退しても受験が控えている。だからキタは強く伝える事はせず、彼女も少しキタの気持ちに気付きながらも曖昧な関係を3年間続けた。
そしていよいよ3年の終わり頃。「キタは部活引退したん?」「おん」「お疲れ様。受験は?」「いや、俺は農家になるから受験はせんよ。ナマエは?」「私は無事合格貰えたんよ」「おめでとう、頑張っとったもんな」卒業を控えた時期ではお互い抱えていたものが降りていて少し気軽になった気がしていた。「農家かあ大変やね。結婚とか考えてるん?」「せやね、自分で養えるようになったら考えとる」「相変わらずちゃんとしてんなあキタは」そう言ってふふって笑った彼女に真っ直ぐと向き合う。「ミョウジ」「ん、なん?」「好きや」3年間聴き続けた言葉に彼女はそっと目を細めて「その辺も相変わらずやなあ」と聞き流す。でも今回ばかりは違った。「俺、ずっと本気やったよ」「...え?」今までそれ以上追求しなかったキタがそう言ったことで彼女は目を丸くしてキタを見やる。「初めてミョウジを見た時から本気やった。けどお互い部活あんし3年なったら受験もあんやろ。だから深く追求せんかった。でも肩の荷も降りた今、そないな事もう関係ないやろ」フッと目を細めるキタを彼女は呆然と見つめる。「ミョウジのこと、ずっと好きやったよ。今でも好きやし、恋人なったらいずれ結婚したいとも思うとる」「け...?!」「まあそれはまだ先の話やけど」顔を赤くして彼女にキタはいずれの話で今ではないと釘を刺す。それに押し黙った彼女にキタは続ける。「ミョウジは冗談やと思うとったかもしれんけどな、俺、一目惚れだったん」「...え」「せやから、初めからミョウジのこと好きやったよ」ふわりと目元を和らげて微笑むキタに彼女は言葉を失くしながら頬を赤く染めた。それを隠そうと片手を持ち上げるが顔を隠す前にキタに手を掴まれそのまま指を絡め取られる。「な、俺結構待ったと思うんやけど、どうや?」心臓がドキドキして彼女は俯くことしかできずキタはそんな彼女を微笑みながら下から顔を覗き込んむ。もう答えなんてとっくの昔から出ていたのを2人は知っていた。「も、もっかい...言ってくれん?」それにキタはそっと微笑みながら目を見て続けた。「好きや、恋人になあてくれん?」「...私も、好きや。離さんとってね」「当たり前や」絡めた手をきゅっと握って小さく笑い合った、夕暮れ時の教室での記憶だった。

「で、でも結婚はまだ考えられへんと言うか...いや、結婚したないわけじゃなくてな」「分かっとるよ。大学もあんし、俺も収入安定させんとあかんしな」「さ、流石やなぁ、真面目やね」「当たり前やろ。好きな子との未来、結婚して家庭を持つなら考えんといかん」「...私、結婚式には白無垢着たいねん」「ええね、なら俺も頑張らんとな」「うぅ...好きやぁ...」「俺も好きや」



03 / 31
HQ夢
 一目惚れしたニシノヤに猛アタックされる話


「好きです!!貴女に一目惚れしました!!結婚を前提に付き合ってください!!!!」
2年の時友人であるキヨコに用があり体育館に行くとそこにいたバレー部の1年である後輩に突然告白された。体育館には声が響き渡ってその場にいた全員が彼に呆気に取られる。「え、えーっと...」「俺、1年のニシノヤユウです!バレー部でリベロしてます!!」「あ、うん...」「貴女の名前!教えてくださいッ!!」「えっと、2年のナマエです...」「ナマエさん...」呆気に取られる私や周りをを置いてぐいぐいくるニシノヤは名前を繰り返すと「名前もすげー可愛いっスね、好きです!!」なんて太陽みたいな笑顔を向けて言ってきた。
その後は部活が始まって早々と体育館を後にする。翌日に昨日の後輩すごかったななんて呑気に考えてた昼休み「ナマエさーん!!」という大きな声に吃驚して扉の方を見れば笑顔でブンブンと手を振るニシノヤがそこにいた。「え!?なんでいるの?!」「ナマエさんを探して2年の教室全部周りました!会えてよかったっス!」てっきり昨日で終わるかと思っていたのにと驚いていると「ナマエさんはもう昼飯食いましたか?まだなら一緒にどうっスか?!」なんて言ってきてこのまま追い返すのも気が引けてなんだかんだ一緒に昼食を食べることになった。
それからニシノヤのことをいっぱい知った。「俺のこともっと知ってほしいっス!」なんて言って自分からいろいろなことを話してきたからだ。同時に「ナマエさんのことももっと教えてください!」とも言ってきてなにかと学校で声をかけてくるニシノヤと交流を重ねて行った。一目惚れなら勘違いかもしれないとあまり告白のことは気に留めていなかったが毎日声をかけて来て「好きです!」って笑顔で伝えてくるニシノヤにこれは本気なんだなあと察する。でも恋愛なんてしたことないしましてや結婚前提とか高校生で言われても実感がない。だからその告白を断るとニシノヤは一度黙ってから「わかりました」と案外静かな声で頷いた。それに安心していると「ならもっとかっこいい男になって絶対ナマエさんを惚れさせてみせます!!」と以前よりも俄然やる気になったと言わんばかりに宣言してくる。
それ以降以前以上のアプローチが始まりその真っ直ぐさにもともと絆されていたせいもあってニシノヤに傾き続けるもでも一目惚れだったし自分には勿体無いななんて考えて「どうして私が好きなの?」と聞く。ニシノヤはそれにきょとんと不思議そうな目をしながら真剣に「きっかけは一目惚れだったけど、ナマエさんのことをいっぱい知って笑った顔とか仕草とか性格とか、いろんなの含めてナマエさんのことが好きです。この人だって一目見た時から確信したんです」「でもニシノヤはキヨコが好きじゃないの?」部活中ニシノヤがキヨコを好いているようだった様子を何度も目撃している。彼からの好意を感じつつ不安になっていたのだ。それを聞くとニシノヤはまた不思議そうな顔をして「キヨコさんももちろん好きッス!でもそれは憧れっていうか、尊敬っていうか...ん“ー...」難しい顔をしながら言葉を探すニシノヤはバッと顔を上げると「俺が心から惚れてるのはナマエさんです!!一生そばにいたいって思うのはアンタだってこと、信じて欲しいっス!!」はっきりと宣言するニシノヤに思わず顔が熱くなる。とっくの前からニシノヤが本気だって分かっていたし自分が傾いているのも自覚してる。「絶対俺に惚れさせて見せますから、待っててください!!!」ニカッと笑うニシノヤに思わず俯いて真っ赤な顔を隠した。あともうとっくに惚れてしまった私が頷くだけの時間の問題なのは、まだ私しか知らない。「好きっスよ、ナマエさん!」だからあともうちょっと、このままでいたい。



03 / 28
HQ夢
 数年越しに結ばれるオイカワの話


“待ってて”という言葉は残酷だ。“いつか”なんて本当に“いつ”か分からない。数年後かもしれないし十数年後かもしれない。確信はなく確証もない。そんな確証もない中でただその言葉を信じる。相手が言葉を守っている確証はない。覚えている確証もない。気持ちがまだあるのかも分からない。それでも夢に、目標に突き進み、諦めることなんてできず、ひたすら前に進み続ける自分たちはただ“待ってて”という言葉を信じることしかできなかった。

自分は卒業後もバレーを続けて海外へ出た。彼女も自分の夢を叶えるために高校時代はお互い直向きに頑張っていた。芽生えた淡い恋心を互いに自覚しながらも言葉にせず近いようで遠い距離で時間を重ねる。互いの夢に目標に負担になりたくないから、言葉にしない道を選んだ。それでも夢も恋も諦めきれなかった俺は「待ってて」って卒業式の日に言った。確証はない。彼女の気持ちがずっと変わらない保証もない。それでも「絶対、いつか迎えに行くから、待ってて」“待ってて”なんていう独りよがりで身勝手な言葉を言わずにはいられなかった。

彼女との連絡はほぼしない。時々近況をメールでし合うくらいで繋がりは薄い。それでもあの言葉を信じてただ直向きに目標に向かって歩き続けた。後悔なんて無い。振り返る暇なんんてない。たとえやり直したとしても同じ道を自分たちは選んでた。
そして新しいステージで自分の集大成をコートで示す。長年のライバルと対峙する。この時が来て、ようやく“いつか”が来たんだと確信した。

夢を叶えた彼女が初めて試合を見に来てくれた。俺の集大成を見せつけて自分はここまで来たんだという。そして試合の後、顔を見せに来た彼女の手を取って、ずっと前から用意をしていた指輪を跪いて差し出した。「いっぱい待たせてごめんね。ずっと君のことが好きだよ。だから、俺と結婚してください」ポロポロと涙を流す彼女は笑顔で頷いてくれて俺はチームメイトや観客の歓声に包まれながらめいっぱい彼女を抱きしめた。「待っててくれてありがとう、大好きだよ」

お互いに夢を叶えた数年後に結ばれるふたりの話。




03 / 26
HQ夢
 初対面プロポーズ事件をするゴシキの話


高校に入学し始めての部活。挨拶を終え先輩であるウシジマの強烈な強さを目の当たりにし対抗心を燃やしてここから上り詰めて行くんだと意気込んだ矢先、体育館に1人の女子生徒が入り込んできた。「すみません、遅れました」そう言って入って来たその人にコーチは聞いてたから大丈夫だとか一言二言喋っている。「ナマエちゃん遅いんじゃない?もう後輩たち練習入っちゃったよ?」「だからごめんって」「いい。ナマエは先生に頼まれた仕事をしてただけだ」それに続いてテンドウやウシジマが仲良さげに会話をしている。ゴシキはぼうっと眺めていた。仲が良い。どういう関係だ?マネか?会話からして三年...そんなことをぼうっと眺めながら考えていたら「あいつはウチのマネだよ」と近くにいたセミが教えてくれた。すると優しさからかマネを呼んでくれてその人の視線が自分に向いた瞬間心臓が強くドクンと鼓動を打った。「よろしく」笑いかけてくれながらそう言ってくれたその人にほぼ無意識鼓動が打つままに叫んでいた。
「好きです!!結婚してください!!!」体育館に鳴り響く声は反響。周りは唖然として騒がしかった体育館は静寂に包まれていた。そんな中冷静なマネの声が透き通る。「いいえ」「はぅッ!!」「当然だ、結婚はまだ早い」「ぐうッ!!」「そこ?!オカンか!」「いや、幼馴染だ」「うっわぁ...」「初対面はそりゃ断るだろ」次々に主力メンバーからの一言が溢れ出し勢いのままプロポーズ紛いのことをしてしまったゴシキは羞恥心の情けなさで顔を真っ赤に染めて唸りだす。でもそこで諦めるゴシキではない。俯かせた顔をバッと上げて真っ直ぐマネを見つめ宣言する。「絶対強い男になって先輩を振り向かせて見せます!!!」その宣言にテンドウがおとはしゃぎだす。そしたらマネは一度考える素振りを見せてから笑顔でこう言った。「うん。楽しみにしてる」その笑顔でまた顔に熱が集まった。

一目惚れから初対面プロポーズするゴシキ。以降アプローチを忘れず強くてかっこいい男になるべく練習に励み幼馴染のウシジマを張り合うようになり卒業後無事結婚を果たすのである。



03 / 20
HQ夢
 彼氏に立候補するが待てをされるクロオの話


「あのさ、それオレじゃダメ?」突然さっきまでの茶化すような声とは違って声を低くしどこか緊張しているような硬い声で告げて来たクロオに驚いて顔を上げるとそこには伺いような視線を向ける彼がいた。それを見てああこれはおふざけじゃないんだなと理解する。高校3年生にもなりと青春を謳歌している友人たちはみんな恋人を作って毎日楽しそうにしていた。恋人がどうしても欲しいとは思っていなくても楽しそうな彼女らをみるとやっぱりいいなあとは思ってしまってつい仲のいいクロオに彼氏いいなあと愚痴ってしまった。最初はお互いふざけ感じで言い合っていたのだが突然クロオは黙り込むとそんなことを言い出した。それに驚いたものの顔は真剣でこれが冗談ではないことくらい分かってる。加えて私たちはなんとなくお互いに好きなんだあって思っていた節もあった。3年間仲良いし距離感も近いから直接言わなくても多分この人は自分に何かしらの好意を持ってる。どんな自覚があった。そして合間に続けてた関係に終止符を打ちついに言葉にしたのはクロオだった。「え?」「僕を彼氏候補者にどうですか?良物件ですよ」次の発言はおふざけが入っていたけどこれはきっと照れ隠しだ。だって耳が真っ赤に染まっているから。私はそれを見逃さなかった。うーんと唸って考える素振りを見せた後私は続けた。「クロオはバレーが好きでしょ?」「え、まあそうだけど?」「この後も試合とか練習あるんでしょ?」「そうだな、夏は合宿行くしな」「じゃあやだ」そう言うとクロオは猫みたい目を丸くして「なんで?!」と詰め寄ってくる。その焦り振りに笑いながら「だって今のクロオはバレーが一番でしょ。好きなことを優先するにはいいけどちょっとくらい恋人を優先して欲しいじゃん。今のクロオにはそれができないでしょ」バレーを一途に続ける今のクロオと恋人になったところで私は二番手。恋人らしい時間は滅多に取れないだろうし真剣にバレーをする彼にとっては邪魔だろう。すると何も言い返せないクロオは「ぐっ...!」と苦虫を潰したような顔をする。それが面白くてまた笑えば「笑い事じゃねぇよ...」と唇を尖らせる。加えてどこか落ち込み気味で纏う雰囲気はどんよりしていた。「だからさ」話を続けようとすると机に突っ伏した顔を上げてクロオはこちらに視線を向ける。「私を一番に出来るようになったら恋人にしてもいいよ」悪戯っ子のように笑えばクロオはポカンとして「え、え、まじ?」と困惑する。それがやっぱり面白い。「...てことは待っててくれる...ってことデスカね?」そう言って期待に膨らむ目を向けてくるクロオ。それに「卒業までは待ってあげる」と笑ったのが三年の春の終わり頃だった。
そして今バレー部は春高を終わらせ三年生は部活を引退。それに続いて受験を終わらせばあっという間に卒業式の日になって、クロオは嬉しそうな顔で言った。「結局ギリギリになっちまったけど...まだ彼氏に立候補出来ますか?」「んー、出来るけどちゃんと言ってくれないと受け付けません」するとクロオは口元を緩めて言った。「好きです。俺の恋人になってくれませんか?」そう言って差し出された手を握りながら「うん、合格!」と笑えば、クロオも嬉しそう笑った。

自覚あり両片思いの話。



03 / 20
HQ夢
 御見舞いついでに爆弾を落として行くキタの話


スマホのアラームで朝に目を覚ますと同時にいつもより重たい身体に気づく。ベッドの中で寝返りをするのも辛くてなんだか身体が怠い。それを自覚すると頭痛もしてきてこれは体調崩したなぁと布団に包まりながら他人事のように考えた。今日は普通に部活があるからもちろん朝練もある。そろそろベッドから抜け出して準備しないといけないけど重たい身体は動いてくれない。マネと言う立場でも選手の手助けをしたいから部活をおろそかにしたくない。だから朝練も行きたいけれどきっと学校に行けば目敏いキタさんに体調不良だと一目でバレてしまうだろう。そしたら正論パンチで殴られるのは目に見えて分かる。だからここは連絡を入れて休んだ方が良いと分かる。でも部活に行きたい気持ちもあって頭痛のする頭でぐるぐる考える。そんなことをしていたらどんどん時間が過ぎて行って同時に体調もどんどん悪くなる。その現状に素直に諦めスマホを開いて『すみません。体調が悪いので朝練は休ませていただきます。』と端的な文をキタさんに送った。申し訳ないなという気持ちで布団に潜り込むとすぐにスマホが鳴って『わかった。体調悪いんなら今日は学校休み。部活の方は大丈夫だからゆっくり休むんよ』という返信が来た。それを見て有難いと思う気持ちとやっぱり申し訳ないという気持ちが湧いて来て誤魔化すようにもう一度眠りについた。それから何度か目を覚まして簡単に食事を取って薬を飲んではまた眠ってを繰り返しているとあっという間に夜になっていた。身体は少し軽くなったけど万全ではなく思わずベッドの上でため息を吐くと突然インターホンが鳴った。こんな時間にと不審に思いながらモニターを見ると私は急いで玄関を開けた。「そなに急がんでも、病人は安静にせんと治らんよ」「き、キタさん…」思ってもみなかったキタさんの来訪に踊りて呆然としていると「思ったより元気そうでよかったわ」と言って片手にぶら下げたビニール袋を差し出してくる。「一人暮らしやし大変やと思って身体に良いもん買って来た」そう言って渡してきた袋の中にはゼリーとか薬とか病人に優しい物がたくさん入っていた。それを見て嬉しくなる半面申し訳なさが募る。「すみません…部活で疲れてるのに余計なことさせて…」「気にせんでええよ。俺がしたくてしたことやし」キタさんの優しい言葉に余計に気分は落ち込む。選手に余計な心配をかけるなんてマネ失格だな...主将にこんなことをさせるなんて...とどんどんネガティブになる。「本当すみません...」するとキタさんはそっと目を細めて頭を優しく撫でながら「ええんよ、別に。それに好きな女の子のこと心配すんのは当たり前のことやろ」と言って来た。その言葉が理解できずにフリーズする。そのまま目を見張って顔を上げてみると目を細めながら微笑んでいるキタさんと目が合って、一気に身体の熱が上がった。「は、え...えぇ?」混乱したまま言葉にならない声を上げるとキタさんはくすりと笑い「ま、そういうことや。だから気にすることないで。ほら、早く身体温めて休み」と部屋に戻るよう促してくる。展開に付いて行けず促されるまま「そ、それじゃあ…」と部屋を閉める寸前「おやすみ。元気になったらまた顔見してな」と言い残してパタンと扉が閉まった。玄関にしばらく立ち尽くした私は顔を真っ赤にしていてどちらの熱が上がったのか分からなかった。

翌日。「おはよう」「お、おはようございます…」体調が治って学校に向かえば一番乗りのキタさんが居ていつも通り挨拶をする。でも昨日のことを意識しすぎて目を合わせられないし声も小さくなってしまう。そんな私の様子見てキタさんは少し満足そうに笑ってこう言った。「やっと意識してくれたなあ」その時の私はきっと林檎みたいに顔が真っ赤だっただろう。


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