遠距離恋愛
涙がぽろり、一粒溢れた。
――着信音が鳴り響く。
こんな真夜中に掛けてくる電話となればきっと彼からの電話だろうとあたしはベッドの中から手を伸ばす。
ディスプレイを覗くと案の定、画面には月詠幾斗の文字が。
「…もしもし?」
『ああ起きてたか、寝てるかと思った』
「じゃあ電話してくんな馬鹿猫」
酷いな、と苦笑する彼。(実際あたしは寝ていたし、安眠妨害しているのだから酷くは無い筈)
あたしは一つ溜め息を吐き、カーテンの向かい側を覗く。
――粉雪が窓の向こうの世界を白く染め上げていた。
「雪、だよ。ホワイトクリスマス…イヴ」
『…本当に悪い』
「やだ、謝んなよ泣きたくなるから――新年には間に合ってね」
勿論、と自信ありげにも聞こえる彼の声。
――彼は一年以上日本へは帰って来ていない。
バイオリニストとして認められるようになった彼は今、世界各地を飛び回り続けている。
一応国際電話で会話はしていたのだが、クリスマスが近づくにつれあたしの心はどんどん地に落ちていく…
でもこの仕事が終われば久しぶりの長期休暇を取る事が出来るとの事で、クリスマスには帰る、との事だったのだが――急な仕事が入ってしまい再会は新年に持ち越し。
「新年を幾斗と迎えられるだけでも、幸せだよ」
少し声を落として寂しげな雰囲気を装う。
途端に彼は重い口調になりあたしにごめんな、と謝ってくる――ここ最近彼は毎日謝っているような気がする。
「謝んなって言ってんじゃーん」
声の調子を元に戻して明るく振舞って見せる。
彼に謝られるとこっちの気分も劇的に落ちていく。だから今は只待ってろ、の言葉だけで十分だというのに。
そう言うと彼はあたしを小馬鹿にしたような笑い声を発した。
『じゃあ謝らない。…待ってろよ、あむ』
「うん、待ってるよ。じゃあね愛しの放浪ダーリン」
『うっぜー』
軽い笑い声の後に突如通話終了のの無機質な音が耳に響く。勝手に切んなと悪態を吐きながらも可笑しくなってぷっと吹き出した。
そして――数日後の幸せを胸に抱き、あたしと彼を繋ぐ携帯電話におやすみのキスをして目を閉じた。
クリスマス仕様のオルゴールがクリスマスメドレーを奏でる。
少しだけ、寂しかった。
離れるまで気づかなかった、その大切さとか。思い入れとか。
(クリスマスも貴方の誕生日も)
(…全部全部、お祝いしたかったな)
end
未来のお話。
クリスマスとあけおめを同時に祝ってみたよ、おめでとう!
クリスマスには間に合わなかったので、これで勘弁して下さい。Happy new year!!
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