そばにいるから


真夜中の部屋に荒い息遣いが響いている。
悪夢を見ているのか、酷くうなされているようだ。

「音也、音也!」

肩を叩きながらトキヤは声をかけるが目を覚まさない。

「母さん…父さん…」

その言葉で、両親をなくした時の事を夢で追体験しているのだと気付く。

実は音也がうなされるのは今回が初めてではない。
これで何回めだろうか。
初めてみた時は、この歳にもなって両親の事を夢見るなんてと思ったが、こうも辛そうな表情を見せられるとそんな風に思えなくなった。
いつも笑顔を絶やさない音也の闇の部分。
苦しそうな顔は似合わない、いつも笑っていて欲しい。
トキヤは優しく音也の汗で濡れている前髪を梳いた。
音也は目を覚まさないまま、無意識の内にそのトキヤの手を握って頬を擦り寄せる。
人肌の温もりに安心したのか、だんだんと呼吸は穏やかなものに変化し、表情も柔らかになった。

トキヤは、ふぅと深呼吸して呟いた。

「私がそばにいます」

だから、いつかはうなされないで眠れるようになって欲しい。
いつも眩しいくらいの笑顔でいて欲しい。
トキヤは触れ合っている手のひらの温もりを感じながらそう願った。




Happy end・・・



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