「俺だけを見て?」



強がらなくて良いよ、そう思いながらぎゅっと肩を抱き寄せる。
「今までお疲れ様・・・」


望まれて演じてきたもう1人の自分と、今日でさようならをする。
トキヤはずっと辞めたいと願ってきたはずなのに、それでもやはり寂しく感じてしまう。
こんな感情、認めたくない。
トキヤはいつものようにクールな表情のまま、寮の部屋まで帰ってきた。
だけど、部屋に着いて音也の何とも言えない表情を見た瞬間、顔が歪んだ。
そんな時に抱きしめられたら、どうして良いのかわからない。
「何なんですか、いきなり」
「トキヤ、泣きそうな顔してたから」
音也は抱きしめる腕の力を強くして言う。
「私が?そんな訳ないでしょう」
「・・・そっか」
「・・・はい」
トキヤは冷静にそう反論するが、腕の中から出ようとはしなかった。
人肌というのは、なぜか安心感を抱かせてしまう。
たまには、素直にこのぬくもりに身を任せるのも良いかも知れない、トキヤはそう思った。


いつもはすぐに自分の腕から逃れようとするトキヤが、ジッと身をゆだねてくれている、その事に音也は嬉しさを隠せない。少しだけ高い位置にある首筋に唇を寄せ、ちゅっと小さなキスを落とす。
「ん・・・」
くすぐったいのか、トキヤの口から声が漏れる。
「トキヤ、だいすき」
音也はそう呟いて、ぎゅっと抱きしめていた腕を緩め今度はトキヤの唇に自分のそれを重ねた。
トキヤはクールに見えて実は情熱的だ。
HAYATOとしての仕事も懸命に努力していたはずだ。
そうじゃないと、あんなにたくさんのファンがいる訳ない。
その仕事が無事終わった。
それが嬉しくもあり、少し寂しくもあるんだろうと思うと、抱きしめずにはいられなかった。


ねぇ、トキヤ。
今だけで良いから、俺だけを見て?
HAYATOを卒業して、また夢に向かって走り出すその前の、今だけで良いから。
俺だけのトキヤで。





Happy end・・・



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