優しい恋の歌


夜も深くなり、そろそろベッドに入ろうかと獄寺は寝室に入った。
ベッドを覗くと、この時間にはいつも枕元で丸まって眠っている瓜の姿が見当たらない。
「瓜ー」
呼んでも返事は帰って来ない。
死ぬ気の炎はまだ切れていないはずだから、ボックスの中ではないだろう。
「瓜ー」
もう1度呼んでみる。
やっぱり返事はない。
獄寺は心配になって、家中を探し回った。
でも、家の中に気配はなく、外に出て行ったとしか思えない。
こんな時間に、どこ行ったんだ…?
そこで、獄寺は今朝の事を思い出した。
ベッドの脇に落ちていたらしい黒のネクタイに甘えるようにじゃれていた瓜。
それは自分のではなく、偶に訪れる彼のもの。
瓜はあまり会えない彼の事が好きらしい。
そういえば、もう2ヵ月は会ってないか…。
獄寺は、急に会いたくなった。
獄寺だって、恋人には会いたいと思う。
でも、お互い仕事が忙しく、家に帰る時間も惜しいくらいなのを知っている。
責任ある立場の自分達。
それを放棄してまで会いたいとは思わない。
でも、時間が合えば会って顔を見たいと思うのだ。
獄寺は、スーツを脱ぎ捨て私服に着替えると、恋人の家に向かった。

恋人の家は珍しく灯りが灯っている。
いるみたいだな…。
獄寺は合鍵を使い、中に入った。
ガラガラガラと、玄関の扉が開く音が聞こえる。
こんな時間に合鍵を使って入ってくる相手は1人しかいない。
雲雀は、微かに笑顔を覗かせる。
寝室にしている和室には、恋人のボックス兵器である瓜が布団の上で眠っている。
「雲雀ー、瓜来てるか?」
そんな獄寺の声に、少しだけ眉を寄せる。
久しぶりに会ったのに、何て色気のない…。
「そろそろ来る頃だと思ったよ」
獄寺と雲雀は、顔を見合わせる。
「久しぶりだな」
「そうだね。…君、また少し痩せたね」
「そうか?気づかなかったけど」
「それ以上痩せたら、抱き心地悪そうだね。ちゃんと食べなよ」
「わかってるよ」
獄寺は少しだけ顔を赤くさせて、苦笑する。
雲雀が本気で心配しているのがわかるから、獄寺も素直に言葉を受け入れる。
「そう」
雲雀も、それ以上煩くは言わない。
言葉はなくても、充分相手に伝わったのを感じるから。
「瓜、いつからいた?」
「1時間くらい前」
獄寺はすやすや安心しきった顔で眠る瓜を見て、安心した。
「勝手に出て行ったから驚いたぜ〜」
「ネクタイをくわえて、玄関をカリカリしてたから何かと思ったよ」
「瓜、お前に会いたかったみたいだな」
「君は?」
「え?」
「君はどうなの?」
「お前は?」
君が先に言いなよ、と雲雀が目で訴える。
しばし、睨み合う。
でもすぐに2人共、力を抜いて微笑む。
「会いたかったに決まってる」
「僕も、怪我してない君に会えて良かったよ」
2人は会えなかった時間を取り戻すかのように、隙間なく抱きしめあう。
「でも、瓜は賢いね。僕達より僕達の事わかってるんじゃない?」
忙しさのあまり忘れてしまう恋人との時間。
それを寂しいと思い出させてくれる、大事な存在。
2人の恋が続いているのは、瓜のおかげかもなんて時々思う。
「今日はゆっくり出来るの?」
「明日は9時に出れば良いから」
「そう」
雲雀は獄寺のシャツのボタンを1つずつ外していく。
そして、露わになった獄寺の白い肌に、赤く印をつける。
愛おしい気持ちが溢れる。
こんなに長い間、恋をし続けるなんて想像もしていなかった。
いつも一緒にいたいとは思わないけれど、出来るだけ長く恋していたいと思う。
そんな事を思う自分も、悪くない。
2人はそんな事を思いながら、相手に身を寄せた。
せっかく瓜がくれたチャンス。
2人はそれを活かすため、シーツの海になだれ込んだ。




Happy end…



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