王子様と恋人


「翔ちゃん、翔ちゃん」
そう言いながら目をキラキラさせて俺を見下ろす男。
寮で同室のこいつの名前は、四ノ宮那月。
こいつは全く覚えてないが、俺がヴァイオリンを辞めたキッカケになった奴。
コンプレックスを抱かずにはいられない、身長も才能も持っている那月、でもそんな那月にだって弱い部分があって。
それに気付いた時、俺が守ってやらなきゃなんて思ったんだ。
だけどまさか付き合う事になるとは…俺自身が1番驚いている。

休日の今日、俺たちは近所のカフェで飯を食べてきた、その帰り道。
「翔ちゃん、ご飯美味しかったねぇ!今度僕も作ってみようかなぁ」
「それは止めてくれ」
那月の作る料理は破壊力抜群だ。
意識が遠退く程のモノをどうやったら作れるのか、その方が疑問…。
そんな事を考えながら前を見ると那月の前に車が飛び出してきた。
「おい、危な…!」
俺は夢中で那月の腕を引っ張る。
那月の前髪がふわりとひらめいて、目の前まで車が近付いていた事に気付く。
「おいっ!ちゃんと前見て歩けよ!」
俺が怒鳴ると、那月は少ししゅんとしながらも「だってせっかく翔ちゃんとお出掛けしたんだから翔ちゃんを見ていたいんだ」とブツブツ呟く。
「お前な…」
「あ!でもさっきの翔ちゃんすっごく格好良かったねぇ。惚れ直しちゃった♪」
さすが、王子様だよねぇなんて。
それ位の誉め言葉くらいで機嫌が良くなる…訳ない!
俺がどれくらいビビったか、この暢気な男はわかってるのか!
俺の気持ちもお構いなしで那月は柔らかな笑みを浮かべて、「翔ちゃんてば可愛いし格好良いし最高の恋人ですよね」なんてのほほんとした声で言っている。
「翔ちゃん、ぎゅー」
いきなり立ち止まると、那月はその言葉通り、腕の中に閉じ込められた。
ここまでくると、怒る気も失せてしまう。
大切な存在の危機に心臓が早鐘のように高鳴って、少ししんどい。
おとなしく腕の中にいると、いつもより力を込めて抱きしめられ「ごめんね、ビックリさせて。翔ちゃんの心臓、ドキドキが速い…本当にごめんなさい」と悲しそうな口調で言われた。
「…ん。わかったなら次からはちゃんと前見て歩け」俺はそう呟いた。
那月の温もり、鼓動に自分の心臓の音ものんびりしたものに変わっていく。
「……はぁ」
俺は深呼吸をすると、腕を払いのけて那月を置いて歩き出そうとした、その時。
那月がグイッと腕を引っ張りお互いの顔が近付く。
そして、チュッと可愛いキス。
すぐに唇は離れたけど、ここは…道端。
「この馬鹿ーー!」
俺はまた怒鳴る事になる。
那月といると、心臓がジェットコースターに乗っているみたいにかき回される。
絶対那月には言わないけど。
それが楽しいんだ。




Happy end






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