「わ…」
和希は思わず声を上げた。
のんびり景色が変わっていき、ネオンサインや建物の明かりがどんどん光の粒になっていくのが面白い。
「あれ?もしかして観覧車初めて?」
和希は頬をポリポリかきながら拗ねたようにポツリと呟く。
「あなたは慣れてそうですね」
「もしかして妬いてるの?」
「まさか」
和希がそう即答すると、成瀬は楽しそうに笑った。
その後、しばらく静かな時間が続く。
2人は対角線上に座って、和希は外を成瀬は和希を見ている。
観覧車が頂上に近付くと、成瀬はすくっと立ち上がって和希の隣に座った。
片側に傾いている気がして少し怖いし、何よりすぐ隣に成瀬がいて自分を見つめているのが居心地悪い。
文句を言おうと成瀬の方を向くと予想以上に顔が近かった。
「ちょ…成瀬さ…」
和希が文句を言う間もなく成瀬の唇が和希の唇を塞ぐ。
「んぅ」
強引に口をこじ開けられて舌を入れられる。
蹂躙されながらも、和希は成瀬の背中をバリバリ引っ掻く。
少し離れた唇から和希の罵倒が洩れる。
「ちょ…こんな所で何すっ」
「頂上なんだから他の人には見えないよ」
成瀬はもう1度唇を寄せるが、和希は背中に回した手で引き剥がすように成瀬の服を掴む。
「そんなに人に見られるの嫌?」
テニスの練習で鍛えられた成瀬の身体ならこのまま力づくで和希を押さえ込むくらい訳ない。
でも、ここまで抵抗されるのは初めてで戸惑ってしまう。
「当たり前です!しかも男同士ですよ?!」
「じゃあ、こうしたら…」成瀬は後ろで結んでいた髪をほどくとバサバサと2・3度首を振る。
和希の目の前には夜景のキラキラではなく、金色にキラキラする成瀬の髪。
「これで男同士には見えないよ?」
「こんなガタイのいい女性はいませ…」
最後まで文句を言う暇もなく、また唇をふさがれる。
長い長いキスは降り口付近まで続いて、和希の初観覧車の3分の1は夜景を見る間もなく終了した。
顔を恥ずかしさ半分、怒りで半分で朱く染めた和希は成瀬の事を無視してさっさと降りて歩き出す。
「遠藤!ごめん!まさかあんなに慣れてないなんて思わな…」
今度は小走りで成瀬の元へ戻ってバシバシ叩く。
「だから!何でこんな人がいる所で馬鹿な事言うんですか!」
「ただの痴話喧嘩にしか見えないよ」「誰と誰が痴話喧嘩ですか!ただの喧嘩です!」
「えー誰がどうみても痴話喧嘩だよ?」
「もう知りません!」
和希は今度こそ逃げるように早足で大通りに出るとタクシーを拾って乗り込む。
そして和希が成瀬をひと睨みするとタクシーは走り出した。
「これからの毎日が楽しみになりそう」
置いてけぼりをくらった成瀬は、楽しそうに笑って駅へと歩きながらそう呟いた。
Happy end?