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仔犬を拾った。
ダンボールには入ってなくて、いやもしかしたら、そのダンボールから逃げ出したのかもしれない。

そんなことを考えながら、男ふたりは、家路を急いだ。

特に弱ってはなかったので、病院にも連れて行かず、少しだけ温めた牛乳をあげた。
勿論犬用の皿なんてなくて、ふたりが共同で使っていた小さな皿に。

「与作」
「は?」
「こいつの名前」
「何でそんな、古い名前」
「そんな気がした」
「まあいいけど」
「俺たちの、子供」

ふたりは男同士だったから、勿論子供はいなかった。
それでもふたりは仲良く暮していたし、それで十分だったかもしれない。

ただ、形あるものが、欲しかった。

ふたりは仔犬を可愛がった。
ふたりで一生懸命育てた。


仔犬が成犬になって、三歳になるころ。

ひとりの男は、男じゃない女と寝た。
繰り返し、違う女と寝た。

男は怒ったけれど、男は変わらなかった。

擦れ違うふたり。

男は次第に、家に帰らなくなった。

男は家に帰って、大事な子供を、ひとりで育てた。


「散歩に行こうか」

仕事をしているから、どうしたって遅くなった夜、男は鍵を締めて、子供と散歩に出掛けた。


男は、帰ってこなかった。



次にふたりの男が出会ったのは、病院。
白い布が、男を覆っていた。

「どうして」

交通事故。
原因は未だにわからない。
男が最後に電話をかけた相手は男で、男は電話をとらなかった。
鳴り続けた電話に嫌気がさして、出たそれは違う声。

いつから、声を聞かなくなっていたんだろう。

何で、あんなことをしてしまったんだろう。
いつも、ずっと好きだったのは、あの男だったのに。

後悔しても、もう遅いとわかっていながら、男は、ふと気付く。


病院から、もうひとつの病院に、男は走った。

子供が、いる病院。


子供は生きていた。
親が、守ったから。

傷だらけの、生きてる体を抱き締めて、男は泣いた。


本当に最愛だったひとが残した、最愛の、たからもの。



「あいしてるよ」

古臭い名前を呼ぶと、子供は手に鼻を擦り寄せた。


「それでもお前は、俺より先に死ぬんだろうな」


そっと落ちた雫を、子供は必死に拾い上げた。

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