コトリ、と | ナノ


浮気。
伺うように尚人の顔を見ると、ゆっくり、彼の指先が動いて、俺の指先に少しだけ触れた。

「…鈴が好きだった」

それは、過去形であったとしても、ぐっと心臓を生温く握り締められている感じがする。嫉妬というのは、本当に厄介だ。
苦しみを誤魔化すように、俺は小さく頷いた。

「好きだったけど、する気には、なれなくて」
「……」
「それから、鈴が浮気してるのを、知った」
「……」
「仕方ないと思ったんだ、それは、仕方ないと。でも悔しかったし、辛かった、だから、」
「他の人を、…抱いた?」
「………それを鈴の所為にするのは間違ってる、浮気したのは間違いなく、自分だから」





ぞっとした。
一瞬だけ、ふたりを違う生き物だと思った自分自身に。

ふたりの言い分は、俺にはわからない世界。正確には、わかろうとしても、わかることは一生出来ない世界。

どうしてセックス出来なかったのかとか、どうして浮気に走ることが出来たのかとか。
それは、好きじゃないから出来たんじゃないのかとか、本当に好きだったら離れられないんじゃないのかとか。


「あ、」


そうだ。それは、だから、だからこの話に、なったんだ。

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